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Delta株感染を克服する(第1部)─Delta株感染の基礎と臨床[J-CLEAR通信(132)]

No.5087 (2021年10月23日発行) P.34

山口佳寿博 (東京医科大学呼吸器内科客員教授/健康医学協会東都クリニック呼吸器内科/J-CLEAR評議員)

田中希宇人 (日本鋼管病院呼吸器内科医長)

登録日: 2021-10-15

最終更新日: 2021-10-15

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新型コロナ感染症が発生してから1年半以上が 経過した。2021年9月21日現在,世界全体で2億2800万人の確定コロナ感染(世界総人口の約3%),470万人の死亡(粗死亡率:2.1%)が,わが国では168万人の確定感染,1.7万人の死亡(粗死亡率:1.0%)が確認されている1)。わが国を含め世界各国でワクチン接種が速いスピードで推し進められているにもかかわらず〔世界全体で57.8億doses(9月19日現在),わが国で1億4400万doses(9月11日現在)の接種終了〕1),コロナ感染症は世界全体でみた場合,終焉に向かうどころかさらなる拡大の様相を呈している。

この現象は,間断なく発生しているコロナウイルスの変異に起因するもので,特に,ワクチン抵抗性が高いDelta株を中心とするVariants of Concern(VOC)の世界的播種が最大の原因と考えられている。今回は,Delta株感染に関する膨大な報告について,2部構成に分けて解説する。第1部では“Delta株感染の基礎と臨床”,第2部では“Delta株感染に対する現状ワクチンの効果,新たな治療法の模索”について理解を深めたい。

1 変異株の発生と世界的播種

2019年12月末に中国武漢で発生した新型コロナ感染症の原因ウイルスを武漢原株,それから進化したものであるが機能に多大の影響を及ぼす変異を有さないウイルスを野生株(第1世代)と定義する。2020年2月下旬にはS蛋白614位のアミノ酸が変異したD614G株(従来株,第2世代)が発生した。2020年の秋口まではD614G株が世界を席巻する主たるウイルスであった。しかしながら,2020年の秋以降,ウイルスの変異速度が上昇し(明確な原因は不明),D614G株のS蛋白501位のアミノ酸が変異したN501Y株ならびにN501Y変異を有さない非N501Y株がD614G株を凌駕し,コロナ感染症は第2世代から第3世代変異株の時代に突入した(図1)。

D614G株のS蛋白における変異が1箇所であったのに対し,第3世代の変異株は8箇所前後の変異を有し,感染性,病原性が高い。WHOは広範囲の地域に播種し世界レベルで多大の健康被害をもたらす変異ウイルスをVariants of Concern(VOC)と定義した2)。VOCには,Alpha株(英国株:B.1.1.7),Beta株(南アフリカ株:B.1.351),Gamma株(ブラジル株:P.1),Delta株(インド株:B.1.617.2)の4種類が含まれる。9月21日現在,Alpha株は世界193カ国,Beta株は142カ国,Gamma株は96カ国,Delta株は187カ国で検出されている3)

さらに,WHOは局地的に蔓延している変異株をVariants of Interest(VOI)とVariants under Monitoring(VUM)に分類し,今後の持続的注意を呼び掛けている。VOCは4月末以降,Alpha株,Beta株,Gamma株,Delta株の4種類に固定されたままだが,VOI,VUMに分類される変異株は月単位で目まぐるしく入れ替わっている。これは,2021年の春から夏にかけてDelta株が世界を席巻し,それまでVOIに分類されていた変異株の多くがDelta株に駆逐されつつあるためである。9月21日現在,VOCについで警戒度の高いVOIに分類されているのは,ペルーで最初に検出されたLambda株(C.37)とコロンビアで最初に検出されたMu株(B.1.621)の2種類のみである3)。以前VOIに分類されていた3種類の変異種は比較的警戒度の低いVUMに格下げされた(9月21日現在,15種類のVUMが存在)3)。今後も変異株の帰属は変異株の播種状況に応じて変更される可能性が高く,WHOの情報を注意深く見守る必要がある。

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