硬膜下血腫(SDH)は,脳挫傷(脳実質の損傷,脳表の血管損傷)および架橋静脈からの急激な出血による急性硬膜下血腫(ASDH)と,比較的ゆっくりと増大する慢性硬膜下血腫(CSDH)に分類できる。ASDHの原因の大半は頭部外傷(交通事故,転落,スポーツ,喧嘩等々,稀に脳動脈瘤破裂に伴うことがある)であり,原因となる外力は急性硬膜外血腫に比べるとはるかに大きいと考えられている。日本頭部外傷データバンク(Japan Neurotrauma Data Bank:JNTDB)によると,高齢者の頭部外傷手術例に占めるSDH(この場合ASDHを意味している)の割合が増加傾向にあり,高齢化を反映しているようである1)。一方,CSDHの原因は,主に頭部外傷であるが,抗凝固療法による凝固障害や,各種疾患による凝固異常,透析,大酒家,悪性腫瘍の硬膜転移もある。CSDHは,50歳代以上,特に高齢者に多くみられ,年間発生頻度は10万人に1~2人程度である。
急性期の重症頭部外傷後は,CT撮影がルーチン化されており,三日月型(凹レンズ型)の血腫が特徴的なことから診断に難はない。頭部外傷部位の対側に発生することが一般的であり,脳の損傷の程度と血腫の大きさにより症状は様々であるが,脳の局所症状というよりは,意識障害の重症度と悪化のスピードを即座に把握し対応することが重要である。
症状としては,典型例では頭部外傷後,数週間の無症状期を経て頭痛,嘔吐などの頭蓋内庄亢進症状,片側の麻痺(片麻痺)やしびれ,痙攣,言葉がうまく話せない(失語症),認知機能や意欲の低下などの精神障害と様々であるが,年代によって症状が異なる。50~60歳代では,頭蓋内庄亢進症状が主であり,70歳以上の高齢者では潜在する脳萎縮により頭蓋内圧亢進症状は少なく,認知症などの精神症状に類似した症状が主体である。したがって,各世代により症状に差があるが,まず本疾患を疑うことが重要である。診断を確実にするにはCTあるいはMRIなどの画像診断が有効である。
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