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特集:偽痛風とはどのような病気?

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  • 5 急性関節炎の鑑別診断

    偽痛風の診断においては,変形性関節症の急性増悪,痛風性関節炎,関節リウマチとの合併や,特に治療に急を要する感染性関節炎との鑑別が重要である。最初の診察時にすぐには鑑別ができないことも多いが,視診や触診,既往歴や病歴を注意深く見れば,ある程度の鑑別は可能である。

    (1)感染性関節炎

    一般細菌による関節の感染を化膿性関節炎,結核菌による関節の感染を結核性関節炎と呼び,両方を合わせて感染性関節炎と言う。結核性関節炎は熱感を伴わないなど化膿性関節炎とは異なった様相を呈するが,ここでは両方を合わせて感染性関節炎として表記する。

    感染性関節炎は診断を誤り見逃すと,急速に増悪して関節の機能障害や生命予後に関わることがあるため,常に感染性関節炎の可能性を念頭に置いて診断と治療を開始すべきである。

    X線検査やエコー検査では痛風,偽痛風,感染性関節炎の鑑別はほぼつかず,血液検査のCRPはいずれも上昇するため判断基準にはなりにくい。診断には関節液の結晶や菌の検鏡と培養が決め手になるが,検査には数時間から数日の日時を要する。たとえば検体を提出して数時間後に「CPP結晶を認めた」と検査会社からの緊急検鏡結果を見て安心することがしばしばである。もちろん,痛風や偽痛風などの結晶性関節炎と感染性関節炎の合併もありうるので,培養結果が出るまでは完全には安心できない。

    関節液中の結晶は偏光顕微鏡で尿酸結晶は針状で強い負の複屈折性,CPP結晶は棒状または方形で弱い正の複屈折性を示すが,筆者は自分で検鏡した経験はない。欧米のリウマチ医は検査技師に任せず,医師自身が迅速に関節液を偏光顕微鏡で検査する傾向にある。国内でも日本リウマチ学会主催で医師による関節液の検鏡のワークショップが開催されつつあるが,一般クリニックではなかなか医師自身による検鏡検査は難しいと考えている10)

    (2)痛風,偽痛風,感染性関節炎の鑑別

    痛風,偽痛風,感染性関節炎のそれぞれの特徴と主な鑑別点を表にまとめた(表3,4)。好発年齢と性差については痛風では中年の男性に多く,最近では若い男性や女性にも増えている。偽痛風の場合には若年性は稀で,60歳以上に多く10歳増えるごとに発生率が倍ほど高まる。ピークは80歳で90歳以降は人口が減るため発生も減る。偽痛風は性差がないと諸家の報告に多いが,久保田らは65歳未満では男性が女性より多く,65歳以上では女性が多いと報告している8)。自験例でも60歳未満では3例とも男性で,60歳以上では2倍以上女性が男性より多い(図1)。この性差の原因は高齢になるほど女性の人口比率が男性より高くなることと,変形性膝関節症が男性より女性に多く発生することが関連していると考える2)。感染性関節炎には年齢や性差はないが,高齢になると免疫力が低下するので壮年者よりは多いと思われる。

    痛風の基礎疾患は高尿酸血症であるが,痛風発作時には血中の尿酸を関節に排出しているため,血液検査で必ずしも尿酸値が高くない場合もあり,注意が必要である。偽痛風は膝関節発症例が50%以上であり,変形性膝関節症を合併することも多いが,基礎疾患とは言えない。副甲状腺機能亢進症があれば,ない場合より3倍偽痛風になる確率が高いとの報告がある4)9)。感染性関節炎は糖尿病患者や免疫抑制薬を使用している場合に確率が高くなる。また,直近の当該関節の手術や関節内注射の既往にも注意が必要である。

    罹患関節では痛風は足の第1趾MTP関節に好発するが,そのほか足関節や足,アキレス腱,膝蓋腱などにも多い。偽痛風は主に中・大関節に発症し,文献的には膝関節発症が50%以上で,自験例では84.2%であった。感染性関節炎はどの関節でも起こりうる。

    関節の外観では痛風は赤黒く腫脹して痛々しいことが多く,熱感も伴う。偽痛風では発赤はみられる場合もみられない場合もあるが,関節全体の腫脹が著明である。感染性関節炎は発症後急速に腫脹と疼痛と発赤が増悪する。

    痛風では全身状態が普通であることが多い。偽痛風では特に高齢女性の場合は全身倦怠感,微熱や食思不振が現れる場合がある。感染性関節炎は時間の経過とともに全身状態が悪化し,全身倦怠感や発熱が増悪していく。

    関節液はいずれの疾患でも濁っているが,濁りだけでは痛風,偽痛風,感染性関節炎との鑑別はできない。関節液からの鑑別診断のフローチャートを図3に示す11)

    関節液中の白血球数あるいは好中球数が25000/μL以上あれば感染性関節炎を強く疑う。50000/μLもあれば関節液はドロドロの膿性となるが,感染初期では白血球数も少なく,外観は必ずしもドロドロではなく,淡い濁りに見え感染性関節炎ではないと誤診する危険性がある。白血球数が少ない場合はいずれの疾患もありうると認識 するほうがよい12)

    関節液に尿酸結晶かCPP結晶が見つかれば,少なくともそれらの結晶誘発性関節炎であると言える。しかし,感染性関節炎との合併も少なくないと言われており,関節液の菌の塗抹検鏡検査,培養検査で陰性が証明されるまで安心はできない13)

    関節液に結晶が見つからず,菌の塗抹検鏡検査と培養が陰性の場合は高度な炎症と考える。結晶が存在し,菌の塗抹検鏡検査と培養が陰性の場合は痛風あるいは偽痛風と診断する。菌の塗抹検鏡検査か培養で陽性であれば,感染性関節炎として入院してもらい,関節鏡による洗浄などの迅速で強力な治療を開始する。

    血液検査ではCRPは痛風,偽痛風,感染性関節炎のいずれでも上昇するが,感染性関節炎の場合はより高値であることが多く,経過とともに上昇する。赤沈と白血球数は痛風も偽痛風も上昇することが多いが,やはり感染性関節炎の場合は経時的に上昇していく。

    X線検査では,痛風性関節炎の初期は変化がなく,晩期になると虫食い像やびらんがみられる。偽痛風では関節軟骨や半月板の線状・点状石灰化陰影が特徴的であるが,小さい関節では石灰化陰影は見えないか見つかりにくいことが多い。感染性関節炎では中期からびらんが始まり,晩期では関節裂隙の狭小化や関節破壊像が著明になる。

    膝関節などの大関節に感染性関節炎が生じた場合は,結晶誘発性関節炎との鑑別診断が2〜3日はっきりしないことがあっても,数日以内には感染と診断できる場合が多い。しかし,指の関節など小さな関節に感染を生じた場合は,指だけの腫脹と疼痛で全身状態まで悪くなることがほとんどないので,見逃されたり軽く考えられたりしやすい。他院で手指の関節に腫脹,疼痛,可動域制限をきたし,抗菌薬を中途半端に投与された患者が来院することがある。X線検査により指関節の破壊が著明なことが判明し感染性関節炎と診断がつき,病院を紹介して感染部位の病巣搔爬と関節固定術を受けた症例を何度か経験した。

    6 関節液が濁っていたらどうする?

    関節穿刺で濁った関節液が採取された場合,検査に出すために慌てないよう十分準備しておくとよい。

    濁った関節液を採取したら,2本の滅菌スピッツに分注する。1本のスピッツを検鏡用に,もう1本のスピッツを培養用に提出する。操作中に外部の菌により汚染されないように十分注意して清潔操作を行う。汚染を起こしてしまうと,その後の診断と治療が大きく狂ってしまうので十分注意する。

    また,尿酸結晶やCPP結晶は時間とともに融解してしまうので,採取した検体は即日検査会社に検鏡検査を依頼することが大事である。検査が遅くなると結晶が検出されず,偽陰性になる可能性がある。

    両側膝関節が同時に発作を起こしたときや,膝と手関節など違う関節で同時に発症した場合は,必ず検鏡検査も菌培養検査も関節ごとに依頼する。

    同時に,血液検査を行う。生化学一般と血球検査,血清カルシウム値,CRP検査は必須であり,赤沈も行うほうがよい。赤沈は以前は外来で硝子棒に立てて検査をしていたが,現在では検査会社に測定を依頼している。結核性の感染では,CRPがさほど上昇せず,赤沈が高値になる解離が多く,この解離があれば結核性を疑う。

    偽痛風の基礎疾患あるいは合併症として,副甲状腺機能亢進症,ヘモクロマトーシス,低マグネシウム血症などもありうるので,可能な限り血清リン,血清マグネシウム,血清鉄,PTHインタクト,フェリチン,トランスフェリンなども検査しておく9)

    感染性関節炎を疑う場合は血液培養を勧める文献が多い。病院の場合は可能でも一般クリニックで血液培養時に推奨される2セット分の採血をすることは患者に負担があり,実際には困難と考える。関節液の菌検鏡検査と菌培養検査を検査会社に依頼しつつ,後医での検査で菌の検出が偽陰性にならないようにあえて抗菌薬を投与せず,早急に入院施設のある病院に紹介して,血液培養を含めて関節鏡での洗浄や抗菌薬の強力な投与を行ってもらう。

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