◉シェーグレン症候群は膠原病の中で最も頻度が高い可能性がある。また,すべての診療科で患者と出会う可能性があり,非専門医でも基本的な理解が必要である。
◉非専門医でも乾燥症状や臓器病変など典型的な疾患のイメージを理解することで,早期の適切な判断が可能になる。
◉自覚症状の詳細な聴取と他覚所見を通じて,まずは「乾き」を深掘りする。その上で,関節痛,倦怠感,皮疹,内臓障害など多岐にわたる症状から診断を行う。
◉抗SS-A/Ro抗体・抗SS-B/La抗体に加え,抗セントロメア抗体にも注目することで,シェーグレン症候群を見逃さない。
◉診断したあとにどのように診ていくべきか,患者会の活動や声にも耳を傾ける姿勢が求められる。
読者の多くが膠原病の非専門医かと思われるが(タイトルにも「非専門医のための」と明示),シェーグレン症候群を扱う本稿に目をとどめて頂けたことを嬉しく思う。まずは私見ではあるが,非専門医に本疾患を知って頂きたい5つの理由を挙げてみた(表1)。
前半3つは主に診断に関する内容である。
シェーグレン症候群の診断に関して,きわめて強く記憶に残っている一節を引用したい。
「私がいつも若い医師に言っていること。私がリウマチ膠原病の専門家として認める必要条件は(十分条件とは言わない),シェーグレン症候群と脊椎関節炎をきちんと診断できること。
他のリウマチ膠原病専門医を通過して私の外来に到達するこの2つの疾患患者の多いことがそう言わしめます。」1)
(岩田健太郎 編『診断のゲシュタルトとデギュスタシオン』より引用)
冒頭から筆者の個人的な話で恐縮だが,全身を診る専門医であること,診断に関心があったことから膠原病(および腎臓)を専門領域に決めた。その後,様々な縁が重なってシェーグレン症候群と脊椎関節炎に関心を持ち,両者の研究や学会活動に関わっていることもあり,上記の意見に深く共感する。膠原病の非専門医,特にジェネラルな診療を行っている医師に向けて,シェーグレン症候群をきちんと診断することが,意外にもチャレンジングであるということが少しでも伝わることを期待して稿を進める。
また,シェーグレン症候群を知って頂きたい5つの理由の後半2つに挙げているように,シェーグレン症候群は医学的・社会的に課題の多い疾患のひとつである。我々専門医も反省するところが大きく,十分に患者さんの声を拾い上げた上で向き合えていない可能性がある。
そのような中,日本シェーグレン症候群患者の会では,会員276人(回収率54%)からアンケート調査を行い,「日本シェーグレン白書2020」として冊子にまとめている2)。後述するが,診療実態に加えて患者さんから医療に対する要望が多く書かれており,診療に関わる者としては参照するたびに姿勢を正している。また,このアンケートをもとに2報の論文が発表されており,まさに患者さんの声が医療者にとっての教科書となっている3)4)。
専門医にとっても診断が難しいことが多く,また診療上も課題の多いシェーグレン症候群について,本稿を通して多くの読者と共有できれば幸いである。
本邦において2010年度に厚生労働省の自己免疫疾患に関する調査研究班が実施した疫学調査では,日本人のシェーグレン症候群患者数は6万8483人と推定された(表2)5)。一方,シェーグレン症候群の患者団体であるSjögren’s Foundationの試算によると,米国人83人当たり1人(1.2%)にシェーグレン症候群の可能性があるとされる6)。この比率を本邦に適用すると,2024年10月1日時点での本邦の総人口1億2379万人÷83人=約149万人となる。全国の医療機関を対象とした疫学調査に対して,実に20倍以上の潜在患者が存在する可能性があることになる。ちなみに関節リウマチは,本邦で約80万人とされており7),潜在的なシェーグレン症候群患者は,それを大きく上回る可能性がある。
現実の診療に目を向けてみる。筆者の勤務している施設は,500床を超える地域医療支援病院であるが,2022年4月まで膠原病内科医が不在であった。赴任後,専門外来を開設すると2年間に院内外から462例が紹介初診した。なお,地域全体として専門医が少ないため,事前に医師会などを通して膠原病外来への紹介基準案を提示した(表3)。後述するようにシェーグレン症候群を診断する状況は多彩であり,発熱や関節症状のみでなく,あらゆる臓器病変やデータ異常がきっかけになりうる。シェーグレン症候群に限らず淡々と膠原病診療を続けた結果,2年間に最も多く診療した疾患がシェーグレン症候群で100例にものぼった。次点は関節リウマチで約70例,そのほか血管炎,全身性エリテマトーデス,結晶性関節炎などが続いた(表4)。
改めて本邦の推計患者数を見直してほしい。関節リウマチが約80万人に対してシェーグレン症候群は7万人弱,一方で,一例として当科外来では関節リウマチが約70例に対し,シェーグレン症候群が100例である。筆者がシェーグレン症候群を専門にしているとはいえ,全国から症例が集まってくるわけではなく,あくまでも地域の中で淡々と診療を続けた結果である。
1施設のみのデータで語ってはいけないが,少なくとも診断されていない潜在的なシェーグレン症候群症例がいる可能性は示唆される。“隠れた”本疾患を拾い上げるためにどうしたらよいか? ここから診断について考えていく。
膠原病ではほとんどの疾患で分類基準が策定され,随時更新されている。シェーグレン症候群についても同様であり,これら“基準”との“付き合い方”について解説する。
はじめに,診断基準ではなく分類基準と呼ばれることに注目して頂きたい(表5)。
分類基準は,あくまでも臨床研究において均一な患者群を選定するためのものであり,分類基準を指折り数えて診断するのではない8)。一方,膠原病の各疾患で新たな分類基準が発表されると,その妥当性を検証する研究が行われ,感度・特異度が算出される。分類基準の感度・特異度を検討するということは,診断のgold standard=正解が別にあるということになる。膠原病診療におけるgold standardとは何か? 多くの場合,それは臨床診断である。すなわち,病歴・身体所見・検査所見を総合的に判断して,専門家が診断を決めることである。
上記の膠原病診療を巡る言説は,専門医の間では繰り返し話題に上っており,聞き飽きたという読者もいらっしゃるかもしれない。分類基準は臨床研究用,診断は専門家の判断とはいうものの,診療経験の少ない医師が診断しようとする場合には戸惑ってしまうだろう。筆者も初期研修を終えて専門研修を始めたばかりの頃,経験もないのに臨床診断する方法がわからず悩んだ時期があった。再度,私見ではあるが,非専門医にとっての膠原病分類基準との“付き合い方”を提案し,シェーグレン症候群における3つの基準を具体的に見ていきたい。