偽痛風の診断基準では,X線検査による軟骨か半月板の石灰化陰影は必ずしも必須ではない。石灰化陰影がX線検査で見えない場合でも,急性の関節炎で関節液中にCPP結晶が検出されれば,偽痛風と診断できる。特に膝関節以外では石灰化陰影は見えにくい。X線検査で石灰化陰影が他の関節より膝関節に多い理由としては,膝関節が人体で最大の関節で軟骨量が多いのと,半月板は平坦で水平に見たときに半月板内に蓄積したCPP結晶が銀河系の中心を横から見るmilky wayのようにより濃く見えることが理由と推察した2)(図4,図5)。
逆にX線検査で石灰化陰影が見られても,必ずしも偽痛風とは言えない。欧州リウマチ学会(European Alliance of Associations for Rheumatology:EULAR)は従来の偽痛風を含めて, CPPDという概念を提案し,4つに分類している9)。
①臨床症状のない無症候性CPPD:X線検査でたまたま軟骨内石灰化症が見つかったもの
②CPPDを伴う変形性関節症:画像や組織検査で変形性関節症にたまたまCPP結晶が見つかったもの
③急性CPP結晶性関節炎:従来の偽痛風
④慢性CPP結晶性関節炎:CPPDを伴う慢性の関節炎
臨床上でいわゆる偽痛風あるいは偽痛風性関節炎というのは,この分類の中で③にしかすぎない。
石灰化陰影の原因となる軟骨の石灰化は加齢とともに増える。50歳以下には稀で,60歳7〜10%,65〜75歳10〜15%,85歳以上30〜50%とされ14),60歳以上では10歳ごとに軟骨の石灰化が2倍に増えるとされている4)。これらX線検査で石灰化陰影がみられる症例がすべて急性の偽痛風性関節炎を起こすわけではなく,一部の症例が急性関節炎を起こす。膝関節の半月板片方だけに石灰化陰影がみられる場合もある。
自験例57症例の血液検査では偽痛風における諸家の報告通り4),白血球数3700〜17900(平均8337)/μLと全体的に高くなく,CRPは0.02〜23.86(平均7.93)mg/dLと低値から高値まであるが,平均的には高い傾向にあった。血清カルシウム値は諸家の報告では高いとする報告や低いとする報告があるが,自験例では血清カルシウム値が高値な症例はなく,軽度の低カルシウム血症が6症例あった。当院が採用している検査会社の血清カルシウム値正常値は8.4〜10.4mg/dLであるが,57症例の血清カルシウム値の平均値は8.9mg/dLと全体的に低値であった。
血清リン値は従来測定していなかったが,4症例のみ測定し,いずれも正常値であった。血清マグネシウム値も4症例のみ測定し,いずれも正常値であった。若年性の43歳男性のみ,様々な血液検査を追加したが,TSH,トランスフェリンは正常値でPTHインタクトがやや高値,フェリチンが高値を示していたが,副甲状腺機能亢進症やヘモクロマトーシスの徴候はなかった。
エコー検査のほうがX線検査よりも軟骨内あるいは半月板内の石灰化を検出しやすいとの報告がある5)15)16)。膝関節の大腿骨と脛骨間の半月板に点状の高エコー領域があれば半月板の石灰化を示し,さらに大腿骨顆部の軟骨をうまく描出できれば軟骨内に高エコー領域が描出される15)16)。筆者はエコー機器をクリニックに備えているが,まだ技術が稚拙なためか,エコーで半月板の高エコー領域が見えてもそれが石灰化陰影だと断定できるレベルまで達していない。また,大腿骨顆部の関節軟骨内に高エコー領域は見出せていない。
検索すると文献15と16で綺麗な石灰化エコー像を見ることができるので,一度見て頂きたい。
MR検査は偽痛風の診断にはほとんど役に立たず,痛風や感染性関節炎との鑑別にも役立たない。
痛風と異なり偽痛風を根本的に治療する薬剤も予防する薬剤も現在のところない17)。自験例では急性関節炎に対して全例軽い安静の上,消炎鎮痛薬の貼付剤とクリームで炎症を抑え,年齢と症状に合わせて弱めか強めの経口NSAIDsや坐薬を投与した。胃腸障害や腎障害がある場合は,NSAIDsは使わずアセトアミノフェンを投与した。
現在,偽痛風の急性炎症にはNSAIDsが基本である。関節液がある場合,関節内に長時間作用性のトリアムシノロンアセトニドなどのステロイドを注入すると炎症が速やかに消退する。しかし,筆者は関節内注射で5例の医原性感染性関節炎を起こした経験から(後述),この10年間は濁った関節液を採取した場合はステロイドを注入せずヒアルロン酸を関節内注射している2)12)。ヒアルロン酸が偽痛風を増悪させる可能性について議論があるが4),ヒアルロン酸は偽痛風の増悪には直接関与しないと考えている。
欧米ではNSAIDs以外にコルヒチン,メトトレキサート(MTX),クロロキン,Interleukin-βなどの使用例がある4)17)。コルヒチンは日本人には感受性が強く,下痢やミオパチーなどの副作用が欧米人より生じやすいこと,また偽痛風には保険適用外であるため筆者は使用経験がない2)。MTXは効果がないとの文献もあり4),クロロキンやInterleukin-βなどはまだ考証が必要と考える。
自験例19症例は1回以上再発し,そのうち5症例は短期間に再発しNSAIDsではコントロール不可能であったため,プレドニゾロン10mgを経口投与した。その後漸減し,2~24週間で関節炎はおさまった。再発を繰り返す場合,糖尿病や緑内障がなければプレドニゾロンの少量投与が効果的であると考えられた2)4)17)。糖尿病や緑内障がある場合は,それぞれの主治医と相談して,プレドニゾロン1日5mgを経口投与し,2週間ほどの短期間で漸減中止するとよいかもしれない。
82歳,女性。両変形性膝関節症にて治療中に2018年8月3日から急性の左膝関節炎を生じた。8月4日受診時,両膝のX線検査で半月板の石灰化陰影を認めた。左膝関節から9mLの濁った関節液を採取したためヒアルロン酸を注入した。関節液からCPP結晶が検出され,偽痛風と診断した。経口でロキソニン®3錠,レバミピド3錠,頓用でボルタレン®坐剤25mgを投与し,3日で関節炎は消退した。9月2日から再び左膝関節炎を生じ,9月3日受診時に25mLの濁った関節液を採取し,関節液からCPP結晶を検出した。ボルタレン®坐剤25mgを投与し3日で関節炎は消退した。9月24日より右膝関節炎を起こし,9月25日の受診時に44mLの濁った関節液を採取し,やはり関節液からCPP結晶が検出された。再発を繰り返すのでプレドニゾロン1日10mg経口投与により症状は軽快,5カ月かけてプレドニゾロンを漸減し2019年2月に中止した。その後2020年4月15日に両膝関節の腫脹と疼痛を生じ,両膝の関節液からCPP結晶がそれぞれ検出され,両膝偽痛風と診断した。ボルタレン®坐剤25mgを頓用投与して関節炎は消退したが,5月24日に右膝関節炎を再発し,関節液からCPP結晶が検出され,偽痛風の5回目の再発と診断した。プレドニゾロン1日10mg経口投与を再開した。その後6カ月かけてプレドニゾロンを漸減し中止しているが,2021年9月まで再発は生じていない。
この症例では血清マグネシウム,リン,鉄,PTHインタクト,フェリチン,トランスフェリンなどを検査していないが,血清カルシウム値は3カ月ごとに検査を行っており,常に正常値であり,副甲状腺機能亢進症などはないと考えた。今後の課題として,再発を繰り返す場合は消炎鎮痛薬で関節炎を鎮め少量のステロイドを投与しつつ,全身の代謝異常なども検索すべきであると筆者は考えている。
筆者は整形外科クリニックを開業して22年になる。開業してから現在までに約33万回の関節内注射を行い,計5回の関節内注射による医原性感染性関節炎を起こしている12)。その1例目を紹介したい。ヒアルロン酸の関節内注射を行った数日後に同じ関節の腫脹と疼痛で再診し,関節液は少し濁っていたが,83歳と高齢で全身状態は悪くなかったため,偽痛風と誤診した症例であった。
83歳,男性。左変形性膝関節症に対して2週間ごとにヒアルロン酸の左膝関節内注射を行っていた。ヒアルロン酸の関節内注射をした3日後に左膝関節の腫脹と疼痛を訴えて再診となった。穿刺にて少し混濁した関節液を認めたが,膝関節は軽度の熱感があるものの発赤はなく,全身状態も悪くなかったため高齢者に多い偽痛風と判断し,ステロイドホルモンを関節内注射した。その後,腫脹と疼痛が増悪し,穿刺後5日目の再診時には,左膝関節は著明に腫脹し発赤と全身の熱感を伴っていた。感染性関節炎と診断し,近隣のA病院に紹介し入院した。膿が関節を越えて筋肉まで広がっていてなかなか感染がおさまらず,結局4回の関節鏡による手術を受け感染は治癒したが,関節には伸展-20°の強直が残った。起炎菌は黄色ブドウ球菌であった。
感染性関節炎でも初期では全身状態は安定して局所の軽い腫脹と疼痛と熱感だけの場合がある。この症例では3日前に関節内注射を行っているので,医原性感染を強く疑うべきであったと反省している。たとえ関節内注射の既往がなくても,血行性感染や皮膚のバリアの破綻部分からの感染はありうる。濁った関節液を採取した場合は,必ず感染を念頭に置いて血液検査と関節液の検鏡と培養検査を迅速に行い,感染の疑いがあればたとえ後に結果的に感染がなかったとしても,感染として治療を早急に開始するべきである。
関節は硝子軟骨に血管が分布せず,関節腔内に血行がないために抗菌薬が浸透しにくい。また,関節包を裏打ちする滑膜に絨毛という微細なヒダが多数あるために洗浄などでもなかなか菌が排出しきれず,一度関節が感染すると治療は簡単ではない。感染性関節炎を生じると治癒しにくく,関節の機能障害を残すことが多く,重症になれば死に至ることもある。
高齢者の急性の関節炎では偽痛風を念頭に置いて,感染性関節炎の鑑別診断を行いつつ迅速な対応が必要である。逆に筆者の苦い経験でもあるが,初めから偽痛風と決めつけて診断をするのも危険である。病歴聴取や身体所見や検査をもれなく行うことで,診断を誤らないようにすることが大事である。
【文献】
1)McCarty DJ, et al:Ann Intern Med. 1962;56(5):711-45.
2)井尻慎一郎:医事新報. 2022;5100:32-8.
3)Ryan LM, et al:a textbook of rheumatology 10th ed. Lea and Febiger, 1985, p1515-46.
4)Rosenthal AK:N Engl J Med. 2016;374(26):2575-84.
5)井村裕夫, 他, 編:最新内科学大系 関節疾患(74). 中山書店, 1995, p216-24.
6)O'Duffy JD:JAMA. 1973;226(1):42-4.
7)小野雅典,他:日関節病誌. 2017;36(1):1-5.
8)久保田 解, 他:東北整災外誌. 2020;63(1):36-40.
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10)横川直人:高尿酸血症と痛風. 2018;26(2):25-31.
https://www.fuchu-hp.fuchu.tokyo.jp/about/department/rheumatism/menu/pdf/crystal_arthropathy.pdf
11)Cook PP, et al:Kelley's Textbook of Rheumatology. 9th ed. Saunders, 2013, p1806.
12)井尻慎一郎:トラブル対策 関節内注射の合併症対策. 日本医事新報 電子コンテンツ, 2020.
13)Papanicolas LE, et al:J Rheumatol. 2012;39(1):157-60.
14)益田郁子:痛風と拡酸代謝. 2011;35(1):1-7.
15)Filippou G, et al:Ann Rheum Dis. 2007;66(8):1126-8.
16)Thiele RG, et al:Rheumatology. 2007;46(7):1116-21.
https://academic.oup.com/rheumatology/article/46/7/1116/2899456
17)Zhang W, et al:Ann Rheum Dis. 2011;70(4):571-5.