院内肺炎とは,入院後48時間以上経過してから新しく発症した肺炎であり,入院時既に感染していたものは除かれる。何らかの基礎疾患を有する患者に合併した肺炎であり,患者は易感染状態にあることが多く,また院内(医療)環境中は薬剤耐性菌のリスクが高いため,耐性菌に配慮した治療が必要となることが多い。治療に難渋する例も多く,死亡率は約30%に上る。
一般に肺炎の症状は,発熱,咳嗽,膿性喀痰の出現あるいは増加,息切れ,胸痛などである。ただし,高齢者や免疫抑制状態の患者では,典型的な症状を呈さない場合もあるので注意を要する。これらの症状が複数みられ,胸部聴診上coarse cracklesが聴取され,胸部画像上新しい,もしくは増悪した浸潤影を認めれば,肺炎を疑う。血液検査で白血球の増加,炎症所見の上昇があればより疑わしい。
以上の情報から院内肺炎を疑った場合には,喀痰や気管内吸引痰などの気道由来検体および血液を採取し,細菌学的な検査に提出し,エンピリックな抗菌薬治療を直ちに開始する。グラム染色も起因菌推定の参考にするが,検査に時間を要し治療開始が遅れることがあってはならない。
日本の院内肺炎の検出菌は,日本呼吸器学会によると,黄色ブドウ球菌の頻度が最も高く,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が17.7%,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)が6.5%である。ついで緑膿菌が13.9%で,この2菌種が主要検出菌である。以下,肺炎球菌,その他のグラム陰性桿菌が続く。複数菌感染もある。
耐性菌のリスク因子としては,①過去90日以内の経静脈的抗菌薬の使用歴,②過去90日以内に2日以上の入院歴,③免疫抑制状態,④活動性の低下:PS*1≧3,パーセル指数*2<50,歩行不能,経管栄養または中心静脈栄養,のうち2項目以上で耐性菌の高リスク群とする。
エンピリックな抗菌薬治療を開始後,起因菌が確定できた場合は,速やかに病原体特異的治療に切り替える。病原体特異的治療についてはガイドライン等を参照頂きたい。
抗菌薬の投与期間は1週間以内の比較的短期間が望ましいが,黄色ブドウ球菌,クレブシエラ属,嫌気性菌などにより膿瘍性病変がある場合は2週間以上の長期投与が必要となる。
*1 PS(performance status):全身状態を日常生活動作のレベルで表す指標のひとつで,グレード0~4の5段階に分類される。
*2 パーセル指数:①食事,②移動,③整容,④トイレ動作,⑤入浴,⑥歩行,⑦階段昇降,⑧着替え,⑨排便,⑩排尿,について各々0~15点で評価し,0~100点でスコアリングする。
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