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正常眼圧緑内障における日常の注意点と,ブリモニジンの神経保護作用

No.5110 (2022年04月02日発行) P.52

新田耕治 (福井県済生会病院眼科部長)

登録日: 2022-03-31

最終更新日: 2022-03-29

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①正常眼圧緑内障において,日常生活で気をつけることは何でしょうか。どのような生活習慣が大事なのか,教えて下さい。また,近業作業を長時間行うことが眼に悪いのではないでしょうか。近視は眼の病気のデパートです。近視の眼底所見の見方も教えて下さい。
②交感神経α2刺激薬であるブリモニジン酒石酸塩点眼液の神経保護効果ですが,点眼薬のメカニズムとして角膜や結膜を通して視神経に作用するのでしょうか。降圧薬のクロニジン塩酸塩やメチルドパ水和物はα2受容体刺激作用(主に血管運動中枢)を持っていますが,視神経に対する神経保護効果はないのでしょうか。(東京都 N)


【回答】

 【日常生活での注意点や禁止事項はない。ブリモニジンは,網膜に存在するα2受容体を介して細胞シグナルを活性化することで,網膜神経節細胞死を抑制すると考えられている】

まず①についてですが,緑内障の大部分のタイプは「正常眼圧緑内障(normal tension glaucoma:NTG)」です。NTGは開放隅角タイプであり,5~10年単位で徐々に進行する緑内障なので,急激な視力障害をきたすことはほとんどありません。患者さんに日常生活での留意点をよく尋ねられますが,緑内障だからといって日常生活で「注意しなければならないこと」や「してはいけないこと」はありません。緑内障と診断されたらイコール失明を意味するものではありませんが,必要以上に心配される方がおられます。新型コロナウイルス感染に留意しながら,可能な限り気分転換を図って頂くように指導して下さい。

緑内障発作をきたすのは閉塞隅角タイプです。このタイプは全緑内障の数%であり,高齢女性で遠視の方に多くなっています。また,内服薬や注射薬が誘因となり,緑内障発作をきたす可能性があります。患者さんから「緑内障で加療中」と申告された場合に,開放隅角タイプか閉塞隅角タイプかを患者さん自身もご存知ないことが多いものです。そのため,かかりつけ眼科医にお問い合わせ頂くことで,患者さんの内服薬や注射薬の選択肢が広がる可能性は高いと思いますので,ご高配頂きたく存じます。

ご質問にもありますように,近視は眼の病気のデパートです。近業作業により近視は進行しやすいと言われており,近業を1時間以上継続した場合には目の休憩を適宜とることが推奨されています。

しかし,このような近視予防効果は限定的で,近視が進行するにつれ,眼球後部の一部分のみにコラーゲン線維や弾性線維の変化によって後方へ弯曲する「後部ぶどう腫」と呼ばれる変化1)(図1)や,ブルフ膜のlacquer crack(ひび割れ),黄斑部出血,近視性牽引黄斑症,網膜分離症,近視性網脈絡膜萎縮などを発症することがあります(図2)。特に黄斑部に病変が出現した場合には,視力が低下して日常生活に著しく支障をきたす場合があります。また,近視は緑内障発症の危険因子と考えられています2)3)

 

電子カルテが普及してきた現代医療においては,眼鏡やコンタクトレンズを希望された若年症例にも光干渉断層計などの画像解析をときどき施行し,緑内障発症の有無について常に念頭に置いた診療を心がけたいものです(図3)。若年の頃に撮影した画像は,将来緑内障を疑われた場合に,診断の一助になる可能性があります。

次に②についてですが,点眼後の結膜および強膜中のブリモニジン濃度は,角膜および房水よりも相対的に高かったことから,ブリモニジンの後眼部への移行は結膜/強膜経路で起こると考えられます4)

また,ブリモニジンの神経保護作用として,網膜に存在するα2受容体を介して細胞シグナルを活性化することで,網膜神経節細胞死を抑制すると考えられています。降圧薬のクロニジン塩酸塩やメチルドパ水和物が網膜に必要量移行し,α2受容体を活性化すれば神経保護効果を示す可能性はありますが,クロニジン塩酸塩およびメチルドパ水和物の網膜への移行性や,それぞれの薬剤のα2受容体に対するKi値が不明なので,神経保護作用があるかどうかはわかりません。ブリモニジンの点眼では,α2受容体の活性化に必要とされる量(Ki値:約2nM)が網膜に移行することが報告されています5)6)

【文献】

1) Ohno-Matsui K:Ophthalmology. 2014;121(9): 1798-809.

2) Marcus MW, et al:Ophthalmology. 2011;118 (10):1989-94.

3) Mitchell P, et al:Ophthalmology. 1999;106 (10):2010-5.

4) Acheampong AA, et al:Drug Metab Dispos. 2002; 30(4):421-9.

5) Takamura Y, et al:J Ocul Pharmacol Ther. 2015; 31(5):282-5.

6) Shinno K, et al:Curr Eye Res. 2017;42(5):748-53.

【回答者】

新田耕治 福井県済生会病院眼科部長

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