【質問者】
岩崎真樹 国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経外科部長
【初見では一歩引いて,手術すると決めたら最後まで見届けるつもりで全力を尽くす】
歩けなくなる,転倒する,物忘れ,頻尿,トイレまで我慢できない切迫性尿失禁など高齢者が要介護に陥るiNPHにおいて,髄液シャント術は患者本人の生活的自立だけでなく,自尊心の回復と介護者の負担軽減が期待されます。ただし,手術で症状が改善する程度は,年齢や基礎疾患,特にアルツハイマー病などの神経変性疾患や脳卒中などの併存の影響を受けます。さらに,入院と全身麻酔が必要な手術は認知機能を悪化させる要因であり,興奮・徘徊・暴力などの活動性せん妄や摂食障害などの非活動性せん妄を引き起こします。加えて,オーバードレナージによる慢性硬膜下血腫やシャント感染などの合併症も,加齢や糖尿病などの基礎疾患で高くなります。
しかし,紹介元の医療機関では負の情報は説明されていないことが多く,患者と家族は治ると期待して来院されますので,筆者は初見では一歩引いて,たとえ典型的な3徴とくも膜下腔の不均衡な拡大を伴う水頭症(disproportionately enlarged subarachnoid space hydrocephalus:DESH)の画像所見がすべてそろっていてiNPHと確信しても,安易に手術を勧めることはしないようにしています。
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