わが国の心不全ガイドラインでは、慢性心不全例のナトリウム(Na)摂取量として「6g未満/日」を推奨している。しかし同ガイドラインに記されている通り、「塩分制限の心不全の予後への効果については、明確なエビデンスが得られていない」。4月2日からワシントンD.C.で開催された米国心臓病学会(ACC)学術集会では、この点を検討した初めての大規模ランダム化試験(RCT)“SODIUM-HF”がアルバータ大学(カナダ)のJustin A. Ezekowitz氏により報告された。臨床転帰改善作用は確認されなかったが、QOL改善には有効である可能性が示唆された。パネルディスカッションも含め、紹介したい。
SODIUM-HF試験の対象は、最大用量のガイドライン推奨薬剤治療下でNYHA分類「Ⅱ-Ⅲ」だった、南北米、オセアニアの外来心不全841例である。左室駆出率平均値は36%、「血清Na濃度<130mEq/L」や「推算糸球体濾過率(eGFR)<20mL/分/1.73m2」例などは除外されている。
平均年齢は67歳、33%が女性だった。また33%は過去1年間に心不全入院歴があった。eGFR平均値はおよそ「60mL/分/1.73m2」だった。
これら841例は「1日Na摂取量<1500mg」の「厳格」Na制限群(397例)と「通常」Na制限群(409例)にランダム化され、12カ月間、非盲検で観察された。
「厳格」群では、試験前摂取カロリーを維持するメニューが用意され、それに従うよう指示された。ただしメニュー内の食材は、添付食品リストに掲載された代替素材と自由に交換できた。これらメニューは事前に、その地域・食文化に適するよう調整されたものである。
その結果、Na摂取量は、「厳格」群では試験開始時の2286mg/日から半年後には1649mg/日まで低下し、試験開始1年後も1658mg/日で維持された。「通常」群(2073mg/日)に比べ、415mg/日の低値となった。このNa摂取量は、3カ月ごとの面談時における過去3日間食品記録から推算された値である(「厳格」群ではNa制限が不十分な場合、指導も実施された)。
なお、観察期間中の収縮期血圧、体重はいずれも、両群間に差はなかった。エネルギー摂取量も同様だった。
1年間の観察後、1次評価項目である「心血管系(CV)入院/救急外来受診・総死亡」のリスクは、両群間に有意差を認めなかった(「厳格」群におけるハザード比[HR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.63-1.26)。 内訳を見ると、「総死亡」は「厳格」群でHRが1.38(95%CI:0.73-2.60)と増加傾向、「CV入院」は0.82 (0.54-1.24)、「CV救急外来受診」は1.21(0.60-2.41)だった。
一方、1年後にNYHA分類が改善した割合は「厳格」群で有意に高く(非改善オッズ比:0.59[0.40-0.86])、この差は6カ月の時点で有意となっていた。同様に、KCCQスコアで評価したQOLも、「厳格」群では1年後、著明かつ有意な改善が認められた。一方、6分間歩行距離には、差を認めなかった。
Ezekowitz氏は、介入前Na摂取量がもっと多い患者群、あるいはより厳格なNa制限が可能だったら別の結果が得られるかもしれないとの見解を示した。
パネリストからは、①聞き取り調査に基づく「415mg/日」のNa減量は、実際の減量を過大評価している可能性、②患者が割り付け群を知っていたことが、NYHA分類とQOL改善に影響していた可能性、③介入前Na摂取量や腎機能に合わせた個別Na制限目標値設定の要否――が指摘された。
本試験は、カナダ健康研究所と大学病院基金(カナダ)、ニュージーランド保険研究審議会から資金提供を受け実施された。また報告と同時に、Lancet誌でWeb公開された。