微小血管狭心症は,500μm以下の冠微小血管(細動脈,前細動脈)における器質的・機能的異常のため心筋酸素供給と需要が不均衡になり,心筋虚血を生じる病態である。冠微小血管機能異常には,冠微小血管の拡張能の低下,心室壁内の不均一な血管拡張に伴う盗血現象,微小血管攣縮など複数の機序が関係する。微小血管狭心症は女性に多く(男女比1:2),女性患者は男性患者に比し,より顕著なquality of lifeの低下を示す1)。また,硝酸薬など従来の抗狭心症薬に抵抗性を示すことが知られている。年間心血管イベント発生率は約8%と決して予後良好とは言えず,特に高血圧合併例や冠動脈疾患既往例は高リスク群として注意深い観察が必要である1)。
狭窄率50%以上もしくはFFR(血流予備量比)0.8以下の冠動脈硬化病変がないにもかかわらず,狭心症様の胸部症状(労作時もしくは安静時胸痛や息切れ)を訴える場合,微小血管狭心症の可能性がある。さらに,客観的な心筋虚血所見と,以下に示す冠微小血管機能障害を証明することが,微小血管狭心症の診断に必須となる。冠微小血管機能障害は,①CFR(冠血流予備能)の低下(たとえばCFR<2.0),②アセチルコリン負荷試験において,心表面の太い冠動脈に攣縮は誘発されないものの胸痛と虚血性心電図変化が認められ,冠微小血管攣縮が証明されること,③冠微小血管抵抗の上昇〔たとえばIMR(冠微小血管抵抗指数)>25〕,④TIMIフレームカウント25以上のno-reflowやslow flow現象,のいずれかと定義される2)。同一症例に,複数のタイプの異なる冠動脈機能異常が併存することも稀ではなく,特に冠攣縮性狭心症患者で微小血管抵抗が高値の症例は予後不良である3)。
微小血管狭心症患者では,速効性硝酸薬の効果が乏しく,抗狭心症薬に対し治療抵抗性を示すことも少なくない。微小血管狭心症の治療戦略はエビデンスに乏しく,いまだ確立されていない。現状では,冠危険因子と生活習慣の改善を図り,それでも胸痛発作が頻発する場合,第一選択薬としてβ遮断薬かカルシウム拮抗薬を開始する。さらに,難治例には両剤を併用し,微小循環障害の改善に寄与する酸化ストレス抑制,抗炎症,内皮機能改善作用を有する薬剤(スタチン,ACE阻害薬など)の投与を検討する3)。
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