日本医師会名誉会長(前日本医師会長)の横倉義武氏らが共同代表を務める「ニューレジリエンスフォーラム」は4月26日、国会内で緊急集会を開き、昨年9月の「第1次提言」に続き、「第2次提言」を発表した。夏の参院選に向けた動きが本格化するタイミングで、感染症蔓延や大規模自然災害発生時の「緊急事態宣言」の発令を憲法上に規定することを求める提言を発表した同フォーラムの狙いは何か。
第2次提言は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックや東日本大震災などの大規模自然災害で浮き彫りになった問題点を挙げながら、「感染症の蔓延や大規模自然災害のような緊急事態において、国民の命と健康を守り、経済活動を迅速に回復、維持するためには、法制上も『平時』から『緊急時』の態勢に切り替える必要がある」と指摘。
その上で、「内閣による『緊急事態宣言』の発令を憲法上に規定」することを提言している。
さらに、憲法上に規定された「緊急事態宣言」に基づき①災害対策基本法、感染症法、医療法などの関係法令が「平時」から「緊急時」のルールへと移行できるよう法整備する、②内閣が「緊急財政支出」を行えるようにする、③内閣による「緊急事態の終了宣言」や国会による「緊急事態宣言の廃止決議」で「緊急時」のルールを「平時」のルールに復帰できるようにする─などの対応を求めている。
感染症に関する現行法上の問題については「医療従事者の確保を働きかける組織が存在せず、指揮系統や法制度も未整備のままである」ことなどを指摘している。
26日の緊急集会には、自民党の高市早苗氏ら各党の政調会長が出席した。
挨拶に立った高市氏は「緊急時に行政の関係者が違憲訴訟を起こされないように、『憲法違反だ』と言われないように、たくさんの法律を迅速に運用していくのは非常に難しい話。憲法の中に緊急事態条項をしっかりと設け、様々な事態に対応できる形をつくっていきたいと自民党は考えている。詰まるところは憲法というのが結論。リスクを最小化する、国民の生命を守るために働かせていただく」と述べ、提言を前向きに受け止める考えを表明した。
第2次提言の取りまとめを担当したニューレジリエンスフォーラム企画委員長の松本尚氏(衆院議員/日本医大特任教授)は緊急集会終了後に記者会見し、参院選に向けた動きが本格化するタイミングで第2次提言を発表した狙いについて「第1次提言も(2021年10月の)衆院選の前に出した。第2次提言を参院選の前に出したのは、各党の政策にできれば反映していただきたいということ」と説明した。
松本氏はまた、パンデミック時に迅速に医療従事者を動かすには「医療界全体を統合する組織が必要」と強調。「日本医師会も日本病院会も医療界全体を統合している組織ではない。非常時において医療界全体が統合されるような組織がないと同じことを繰り返すのではないか」と述べた。
ニューレジリエンスフォーラムは、感染症と自然災害に強い社会をつくるため、広く各界と連帯し、緊急事態に対応する国民的議論を推進するという趣旨の下、横倉氏、河田惠昭関西大特別任命教授、松尾新吾九州経済連合会名誉会長の3人を共同代表として2021年6月に設立された。
緊急集会で冒頭挨拶した横倉氏は、ウクライナ情勢に触れ、「ロシアによるウクライナ侵略から2カ月が経過した。いつ我が国も同様のことが起きてもおかしくない。安全保障はもとより、国民の命を守る医療・福祉、社会経済活動が緊急事態にも対応できる態勢が求められている」と述べ、今後、講演会や広報活動を通じて第2次提言に対する賛同者の輪を広げていく考えを示した。
フォーラムの発起人には医療界、経済界、自治体の関係者らが名を連ね、医療界からは、日本病院会の相澤孝夫会長、全日本病院協会の神野正博副会長、日本歯科医師会の堀憲郎会長、日本歯科医師連盟の高橋英登会長、日本薬剤師会の山本信夫会長、日本看護協会の福井トシ子会長、日本理学療法士協会の斉藤秀之会長らが参加している。
日本医師会の現役役員は参加しておらず、憲法上への「緊急事態宣言」の規定や「医療界全体を統合する組織」を求めるニューレジリエンスフォーラムの動きに対し、日本医師会がどのようなスタンスをとっていくか、第2次提言の内容が参院選の各党公約にどこまで反映されるかが注目される。