眼精疲労は眼疾患やある種の全身疾患から生ずるが,近年のスマートフォン,コンピュータ作業の悪条件下,長時間使用による眼精疲労が大きな社会問題となり,視覚系のみならず,身体的・精神的に様々な症状が出現している。以前は本症をVDT(visual display terminals)症候群と呼んでいたが,近年ではデジタルデバイス(DD)の進歩によりコンピュータビジョン(computer vision)症候群とも呼ばれ,コロナ禍でのリモートワーク,リモート講義の激増が多様性に富む眼精疲労に拍車をかけている。
眼疾患や全身疾患の確認,DDの使用条件,時間等を詳細に確認する必要がある。自覚症状としては眼の疲れ(眼精疲労),痛み,乾き,かすみ,さらに頸肩腕部や手指のこり,腰痛,だるさ,手足のしびれ,生理不順,また孤立感から生じる不眠,うつ等も重要な症状である。向精神薬,抗アレルギー薬等を中心とした薬物の服用状態も確認する。
屈折検査・視力検査:正確な屈折値を測定し,視力は遠方,近方,中間距離,両眼開放視力検査が必要である。特に症状が重いときは,サイプレジン®点眼液(シクロペントラート塩酸塩)による調節麻痺下の測定が求められる。
眼位検査:prism cover testによる遠方,近方の眼位を正確に測定する。特に40歳を過ぎると輻湊不全型外斜視(位)や老視の矯正に伴う眼位異常が出現しやすい。一方,近年激増している若年者での調節因子が関与した内斜視(位)も見落としてはいけない。細隙灯顕微鏡検査,眼底検査も必須である。
屈折異常,斜視・斜位を含めた眼科的異常を発見し,それに対する治療に加え,さらに各個人の習慣や仕事環境等を是正しなければ,いかなる薬物,外科的治療も効果はない。
眼鏡は自覚的・他覚的屈折値をもとに処方し装用する。年齢に応じて,近方,中間距離の眼鏡も考慮する。屈折の左右差が大きい場合(不同視)は眼鏡装用で不等像視(左右で物の大きさが異なって見える)等が生じる可能性があり,コンタクトレンズや,近年,盛んに行われている屈折矯正手術も治療の選択肢のひとつとなる。斜視・斜位の有無を確認し,プリズム眼鏡や時に斜視手術も考慮する。
患者指導は最も重要で,20-20-20〔20分おきに20フィート(約6m)離れたところにある物を20秒間見る〕を徹底する。そうすることで毛様体筋,瞳孔括約筋がゆるみ,姿勢も正され,まばたきが促される。
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