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学会レポート─2022年米国心臓病学会(ACC)[J-CLEAR通信(142)]

No.5120 (2022年06月11日発行) P.66

宇津貴史 (医学レポーター/J-CLEAR会員)

登録日: 2022-06-08

最終更新日: 2022-06-07

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4月2日より3日間、米国心臓病学会(ACC)の第71回学術集会が米国ワシントンD.C.で開催された(バーチャル開催も併設)。ライブ参加者はCOVID-19陰性証明の提出を求められ、会場内のマスク着用が義務付けられるなど、感染対策も十分に配慮された開催となった。ここでは薬剤治療を中心に、大規模臨床試験の結果を報告したい。

TOPIC 1
RAAS-i服用下高K血症に対するK低下剤の心血管系有効性は?:RCT“DIAMOND”

レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系抑制薬(RAAS-i)は、収縮能低下心不全(HFrEF)治療には必須だが、高カリウム(K)血症が問題となる。そのような問題を受け、本学会では新規K低下剤パチロマー(Patiromer)を用いたランダム化試験(RCT)“DIAMOND”が、ベイラー大学(米国)のJaved Butler氏により報告された。新型コロナの影響で2次評価項目に変更された心血管系(CV)イベントは、減少傾向すら認められなかった。

DIAMOND試験の対象は1)、①RAAS-i服用下で高K血症を呈している、または②過去に高K血症でRAAS-i減量・中止が必要となった、「左室駆出率(EF)≦40%」のNYHA分類「Ⅱ-Ⅳ」度心不全1195例である。

これら1195例はまず全例がパチロマーを最長12週間服用し、その期間中にRAAS-i標準用量の50%超、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は50mg/日超を目標に増量を試み、成功例が次のランダム化に進んだ。

その結果、1038例(87%)が導入期間を完遂し、878例(73%)が上記RAAS-i増量に成功した。

パチロマー併用でRAAS-i増量に成功したこれら878例は次に、「パチロマー」継続群と「プラセボ」への切り替え群にランダム化され、二重盲検法で追跡された(各群439例ずつ)。

878例の平均年齢は67歳、EF平均値は34%、NYHA分類Ⅱ度とⅢ度がそれぞれほぼ半数を占めていた。心不全治療薬は、RAAS-i、β遮断薬とも両群ほぼ100%が服用していた。

1次評価項目は当初、「CV死亡・CV入院」だったが、新型コロナの影響を受け、「試験終了時までの血清K値変化」に変更された。ただし「CV死亡」、「CV入院」も2次評価項目の1つとして残されている。

その結果、血清K値は、プラセボ群でランダム化直後に著明上昇したのに対し、パチロマー群では大きな変動はなく、ランダム化後54週間の平均K値はパチロマー群で0.10mEq/Lの有意低値となった。また高K血症(>5.5mEq/L)出現のハザード比(HR)も、パチロマー群で0.63(95%信頼区間[CI]:0.45-0.87)の有意低値だった。

そのような血清K濃度への効果もあり、パチロマー群ではプラセボ群に比べ、RAAS-i「標準用量の50%以上維持」が可能だった割合は有意(P=0.015)に高かったが、差は5%のみだった(92 vs. 87%)。一方RAAS-i中止率は、パチロマー群(2.7%)とプラセボ群(3.6%)間に有意差を認めなかった。

そしてCV転帰だが、十分な症例数がないため有意差とはならないものの、パチロマー群におけるHRは、CV死亡:1.31(95%CI:0.65-2.63)[4.1 vs. 3.2%]、初回CV入院:1.34(0.73-2.47)[5.5 vs. 4.1%]、初回心不全入院:1.08(0.54-2.19)[3.6 vs. 3.4%]─と高い傾向が認められた。

パネルディスカッションでは、プラセボ群における高K血症の低頻度が疑問視された。Butler氏は、パチロマーで高K血症をコントロールできた例のみがランダム化されているので、相対的に高K血症低リスク群が対象となっていた可能性があるとした。

また、血清K値の群間差が小さい理由も問われたが、Butler氏から明確な回答はなかった。

本試験はVifor Pharmaの資金提供を受け実施された。

TOPIC 2
SGLT2阻害薬で急性心不全のQOLも改善?:RCT“EMPULSE”事前設定追加解析

昨年の米国心臓協会(AHA)学術集会では、SGLT2阻害薬による急性心不全(AHF)転帰改善作用が、ランダム化試験(RCT)“EMPULSE”で報告され注目を集めた2)(No.5097, 2022年1月1日号掲載)。今回はさらに,SGLT2阻害薬による短期のQOLスコア改善が、ミズーリ大学(米国)のMikhail Kosiborod氏により報告された。

EMPULSE試験の対象は、入院後に安定した急性心不全530例である。日本を含むアジア、欧米の118施設から登録された。

これら530例は、SGLT2阻害薬群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で90日間観察された。入院からランダム化までの期間中央値は3日である。

今回の解析対象はこのうち、QOL指標であるKCCQデータの揃った526例となった。

平均年齢は68.5歳。「左室駆出率≦40%」は67%、62%がNYHA分類「Ⅱ度以上」で、67%が慢性心不全の急性増悪だった。また、2型糖尿病合併率は45%だった。

QOLに関する事前設定評価項目は、KCCQ総合症状スコア(TSS)である。試験開始後90日間の変化を比較した。

その結果、試験開始時に平均40.8ポイントだったKCCQ-TSSは90日後、SGLT2阻害薬群では36.2ポイント増加し、プラセボ群の31.7ポイント増加を4.45ポイント有意(P=0.03)に上回った。このSGLT2阻害薬群におけるKCCQ-TSSの有意改善は、試験開始15日後の時点ですでに認められた(群間差:5.35ポイント)。

さてKCCQスコアは、KCCQ全般スコア(OSS)5点以上の変動が、臨床的に意味を持つとされている3)。そこで後付解析で検討した本研究90日後のKCCQ-OSSを比較すると、SGLT2阻害薬群とプラセボ群の差は4.40ポイントだった(P=0.03)。

またSGLT2阻害薬群におけるKCCQ-TSS改善には有意に近い(P=0.05)地域差があり、アジア地域ではSGLT2阻害薬群で9.94ポイントの増悪傾向(95%信頼区間:-2.52~22.40)を認めた。

本試験はBoehringer IngelheimとEli Lillyから資金提供を受けて実施された。また報告と同時に、Circulation誌Webサイトで公開された4)

TOPIC 3
HFrEF転帰改善実証の強心薬、運動耐容能は 改善せず:RCT“METEORIC-HF”

左室収縮力の低下した心不全(HFrEF)では、生命予後の改善もさることながら、運動耐容能の改善もQOL向上の観点から重要となる。そこでオメカムティブ・メカルビル─直接的な強心作用を有する薬剤として初めてHFrEF例の長期転帰を改善─に期待が寄せられたが、運動耐容能改善作用は認められなかった。デューク大学(米国)のG. Michael Felker氏が、ランダム化試験(RCT)“METEORIC-HF”の結果として報告した。

METEORIC-HF試験の対象は、忍容最大用量の心不全治療薬服用下で左室駆出率(EF)「≦35%」のNYHA分類「Ⅱ-Ⅲ」度心不全、かつ運動耐容能低下を認めた276例である。発作性心房細動/粗動例などは除外されている。

平均年齢は64歳、EF平均は27%、NT-proBNP濃度は平均1320pg/mLだった。また心不全治療としては、96%がβ遮断薬、95%がRAS-iを服用(うち70%はARNi)、さらにSGLT2阻害薬も18%で服用されていた。

これら276例は、オメカムティブ・メカルビル(25→ 50mg×2/日)群(185例)とプラセボ群(91例)にランダム化され、二重盲検法で20週間追跡された。

その結果、1次評価項目である20週間後の「最高酸素摂取量」は、オメカムティブ・メカルビル群で試験開始時の「14.7」mL/kg/分から「0.2」の低下、プラセボ群では「14.9」から「0.2」の増加を認め、変動幅に群間差はなかった(P=0.13)。2次評価項目の「1日身体活動量(アクティグラフ評価)」なども同様で、オメカムティブ・メカルビルによる改善は認められなかった。

なお、有害事象発現にも差はなく、「心不全増悪」、「死亡」、「脳卒中」の発生率も同等だった。

この結果に対しパネリストからは、同薬によるHFrEF例「心不全増悪・心血管系死亡」抑制を認めたGALACTIC- HF試験5)に比べ、軽症例が多いとの指摘があった(Ⅱ度心不全はGALACTIC-HFの53%に対し、79%)。重症例に限れば運動耐容能改善が期待できた可能性もある。これに対しFelker氏は、本試験は登録患者が比較的少数であるため、サブグループ解析から得るものは少ないとの見解を示した(報告ではNYHA分類、EF、NT-proBNPの高低で分けた解析も示されたが、重症例で有効という傾向は見られず)。

本試験はCytokineticsとAmgen、Servier社から資金提供を受けて実施された。

TOPIC 4
妊婦の高血圧に対する即時積極的降圧治療は有用:RCT“CHAP”

妊婦の高血圧に対する介入エビデンスは少ない。その結果、重症高血圧(≧160/110mmHg)に対しては降圧薬治療が推奨される一方、「140-159/90-109mmHg」については、米国高血圧ガイドラインの「ステージ2」高血圧相当にもかかわらず、降圧薬を開始すべきかどうかのコンセンサスはない。このエビデンスの空白を埋めるべく実施されたのが、ランダム化試験“CHAP”である。その結果、これら妊婦に対しても、降圧薬治療の有用性が確認された。アラバマ大学(米国)のAlan T.N. Tita氏が報告した。

CHAP試験の対象は、単胎妊娠23週前で高血圧(「血圧≧140/90mmHg」または高血圧診断・治療歴あり)の米国居住2408例である。重症高血圧(「>160/110mmHg」または降圧薬2剤以上服用)や二次性高血圧などは除外されている。56%がすでに降圧薬を服用しており、8割近くが「BMI≧30kg/m2」だった(平均:38kg/m2)。また16%が糖尿病を合併していた。

これら2408例は降圧目標「<140/90mmHg」を達成すべく即時に降圧薬を開始する「積極」降圧群と、「通常」降圧群にランダム化され、非盲検で追跡された。「通常」群では、降圧薬非服用下(試験前服用降圧薬は中止)で「>160/105mmHg」となった時点で降圧薬を開始し、降圧目標は「<160/105mmHg」である。試験参加者に配布された降圧薬はラベタロールとニフェジピン徐放剤だが、メチルドパとアムロジピンも使用可だった。

血圧はその結果、ランダム化から出産までの平均値で「積極」群は3.1/2.3mmHgの低値となった(129.5/79.1 vs. 132.6/81.5mmHg)。

そして1次評価項目である「出産後2週間までの重篤な妊娠高血圧症候群(ACOG分類)・人工的早産・胎盤剥離・周産期死亡」の相対リスクは、「積極」群で0.82(95%信頼区間[CI]:0.74-0.92)の有意低値だった(30.2 vs. 37.0%)。治療必要数(NNT)は15例となる。

また上記の内訳を見ると、重症妊娠高血圧症候群(23.3 vs. 29.1%)、人工的早産(12.2 vs. 16.7%)の減少が著明だった(いずれも有意差)。また、降圧薬服用歴や糖尿病合併の有無、肥満度などで分けたサブグループのいずれにおいても、「積極」群における有用性は一貫していた。

一方、安全性評価項目である「低体重出産」は、リスク上昇を示唆していた小規模試験メタ解析の結果6)とは異なり、両群の発生率に差はなかった。

パネルディスカッションでは、妊娠高血圧症抑制作用が報告されているアスピリン7)の服用率が45%のみだった点が問題視された。これに対しTita氏は、アスピリンの適応となる「第2三半期」前の対象が多かったためと説明し、また後付け解析ながら、試験開始時アスピリン服用の有無は本試験の結果に影響を与えていなかったと述べた。

加えて、2408例登録に2万9772例ものスクリーニングが必要だったことから、本試験結果の一般妥当性を疑問視する声も上がった。これに対しTita氏は、試験導入のための降圧薬中止後、除外基準である「>160/110mmHg」(安全性確保のため設定)となる例が予想以上に多かったのがスクリーニング数増加の理由と説明した上で、それら重篤な高血圧患者で積極的降圧が奏効しないとは考えにくいとした。

なお、ラベタロールとニフェジピン間で転帰に差が存在するかどうかは、今後検討したいとのことである。

本研究は米国国立心肺血液研究所(NHLBI)の資金提供を受けて実施された。また報告と同時に、N Engl J Med誌でWeb公開された8)

TOPIC 5
慢性心不全に対する厳格Na制限の有用性は 証明されず:RCT“SODIUM-HF”

わが国の心不全ガイドラインでは、慢性心不全例のナトリウム(Na)摂取量として「6g未満/日」を推奨している9)。しかし同ガイドラインに記されている通り、「塩分制限の心不全の予後への効果については、明確なエビデンスが得られていない」。この点を検討した初めての大規模ランダム化試験(RCT)“SODIUM-HF”がアルバータ大学(カナダ)のJustin A. Ezekowitz氏により報告された。臨床転帰改善作用は確認されなかったが、QOL改善には有効である可能性が示唆された。パネルディスカッションも含め、紹介したい。

SODIUM-HF試験の対象は、南北米大陸とオセアニアで登録された、最大用量のガイドライン推奨薬剤治療下でNYHA分類「Ⅱ-Ⅲ」だった、外来心不全841例である。「血清Na濃度<130mEq/L」や「推算糸球体濾過率(eGFR)<20mL/分/1.73m2」例などは除外されている。

平均年齢は67歳、33%が女性だった。また33%は過去1年間に心不全入院歴があった。左室駆出率平均値は36%、eGFR平均値はおよそ60mL/分/1.73m2だった。

これら841例は「1日Na摂取量<1500mg」の「厳格」Na制限群(397例)と「通常」Na制限群(409例)にランダム化され、12カ月間、非盲検で観察された。

「厳格」群では、試験前の摂取カロリーを維持するメニューが用意され、従うよう指示された。ただしメニュー内の食材は、添付食品リストに掲載された代替素材と自由に交換できた。これらメニューは事前に、その地域・食文化に適するよう調整されたものである。一方、「通常」群では、日常診療で実施されているNa制限が 継続された。

その結果、Na摂取量は、「厳格」群では試験開始時の2286mg/日から半年後には1649mg/日まで低下。試験開始1年後も1658mg/日で維持され、「通常」群(2073 mg/日)よりも415mg/日の低値となった。このNa摂取量は、3カ月ごとの面談時における過去3日間食品記録から推算された値である(「厳格」群ではNa制限が不十分な場合、指導も実施された)。ただし、観察期間中の収縮期血圧、体重はいずれも、両群間に差はなかった。

その結果,1年間の観察後、1次評価項目である「心血管系(CV)入院/救急外来受診・総死亡」のリスクは、両群間に有意差を認めなかった(「厳格」群におけるハザード比[HR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.63-1.26)。内訳を見ると、「総死亡」は「厳格」群でHRが1.38(95%CI:0.73-2.60)と増加傾向、「CV入院」は0.82(0.54-1.24)、「CV救急外来受診」は1.21(0.60-2.41)だった。

一方、1年後にNYHA分類が改善した割合は「厳格」群で有意に高く(非改善オッズ比:0.59[0.40-0.86])、この差は6カ月の時点で有意となっていた。同様に、KCCQスコアで評価したQOLも、「厳格」群では1年後、著明かつ有意な改善が認められた。一方、6分間歩行距離には、有意差を認めなかった。

Ezekowitz氏は、介入前Na摂取量がもっと多い患者群が対象、あるいはより厳格なNa制限が可能だったら別の結果が得られるかもしれないとの見解を示した。

パネリストからは、①聞き取り調査に基づくNa減量の推算は、実際の減量を過大評価している可能性10)、②患者が割り付け群を知っていたことが、NYHA分類とQOL改善に影響していた可能性、③介入前Na摂取量や腎機能に合わせた個別Na制限目標値設定の要否─が指摘された。

本試験は、カナダ健康研究所と大学病院基金(カナダ)、ニュージーランド保険研究審議会から資金提供を受け実施された。また報告と同時に、Lancet誌でWeb公開された11)


【文献】

1)Butler J, et al:Eur J Heart Fail. 2022;24(1):230-8.

2)Voors AA, et al:Nat Med. 2022;28(3):568-74.

3)Spertus J, et al:Am Heart J. 2005;150(4):707-15.

4)Kosiborod MN, et al:Circulation. 2022 Apr 4 [Online ahead of print]

5)Teerlink JR, et al:N Engl J Med. 2021;384(2):105-16.

6)von Dadelszen P, et al:Lancet. 2000;355(9198):87-92.

7)Rolnik DL, et al:N Engl J Med. 2017;377(7):613-22.

8)Tita AT, et al:N Engl J Med. 2022;386(19):1781-92.

9)日本循環器学会, 他:JCS/JHFSガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療, 2021.

10)McLean R, et al:J Clin Hypertens(Greenwich). 2019;21(12):1753-62.

11)Ezekowitz JA, et al:Lancet. 2022; 399(10333): 1391-400.

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