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良性家族性血尿(菲薄基底膜病)[私の治療]

No.5121 (2022年06月18日発行) P.43

中西浩一 (琉球大学大学院医学研究科育成医学(小児科)講座教授)

登録日: 2022-06-19

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  • 良性家族性血尿とは,広義の遺伝性腎炎のひとつであり,血尿のみ,あるいは血尿に加えて軽度の蛋白尿のみを唯一の所見とする非進行性の病態が,家系内の複数の家族に認められる症候群である。原則的に,患者およびその家族に,高度蛋白尿,腎機能低下,難聴はみられない。
    良性反復性血尿(benign recurrent hematuria)も同義に使われる。良性家族性血尿では,病理組織所見として糸球体基底膜の広範な菲薄化がみられることが多く,菲薄基底膜病(thin basement membrane disease)もしばしば同義に使われているが,臨床的に良性家族性血尿を示す全例が菲薄基底膜を示すわけではなく,厳密には同義ではない1)

    ▶診断のポイント

    近年,良性家族性血尿の一部(おそらく大部分)が,進行性遺伝性腎炎であるAlport症候群(「アルポート(Alport)症候群」の稿を参照)と同一疾患であることが明らかになり,両者をはっきり区別することは困難である2)3)。すなわち,Ⅳ型コラーゲンα3鎖やα4鎖遺伝子の病的バリアントが片方のアリルにのみ存在する場合(ヘテロ接合体)は血尿のみを呈するが,両方のアリルに存在する場合(ホモ接合体)は常染色体潜性(劣性)型アルポート症候群であり,重篤な本症候群の典型的症状を示す。良性家族性血尿としてとらえられている場合は,常染色体顕性(優性)遺伝形式を示すことになる。このような家系において,ヘテロ接合体でも腎不全がみられることがあり,常染色体顕性(優性)型アルポート症候群家系ということになる。このように,臨床的に良性家族性血尿を呈する家系のおそらく大部分は,Ⅳ型コラーゲン関連疾患である2)3)

    常染色体潜性(劣性)型アルポート症候群家系に限らず,アルポート症候群の大部分を占めるX染色体連鎖型アルポート症候群においても,小児期,特に10歳以下の症例では血尿が唯一の症状であることが多く,腎不全の家族歴が明らかでない場合,鑑別は困難である。家族性に血尿がみられるが腎不全の家族歴がない場合,その血尿患者の腎生検の適応は通常の腎生検の適応と同じであり,経過中に腎不全の家族歴が確認された場合や本人に蛋白尿が持続するときは腎生検を施行し,糸球体基底膜の電子顕微鏡による観察により鑑別することが重要である。糸球体基底膜の広範で不規則な肥厚と緻密層の網目状変化がみられれば,アルポート症候群と診断できる。しかし,良性家族性血尿患者において,しばしばみられる糸球体基底膜の広範な菲薄化はアルポート症候群においてもみられ,注意を要する。糸球体基底膜の厚さは,正常では300nm以上あるが,良性家族性血尿やアルポート症候群では150~200nmと異常に薄い場合があり,糸球体基底膜が断裂して糸球体上皮細胞と内皮細胞が直接接触していることもある。

    家族性に血尿がみられる場合,IgA腎症の場合がある。この場合も腎生検によってのみ鑑別される。

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