高リスク高血圧例での降圧目標値に関しては,長い間論争が続いていた。特に,冠動脈疾患を有する高血圧例での過度な降圧は心筋梗塞を増やすとの“J曲線仮説”が提唱されていたが,否定するだけの根拠に乏しかった。
今回,米国の国立心肺血液研究所〔国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)の組織のひとつ〕という非営利機関が,総力を挙げて実施した臨床研究であるSPRINT研究(Systolic Blood Pressure Intervention Trial)の結果が米国心臓協会と雑誌1)で発表された。このJ-CLEAR通信でも,いち早くその結果概要をコメントを添えてお伝えする。
目的:高齢者を含む高リスク高血圧例において収縮期血圧(systolic blood pressure:SBP)を120 mmHg未満まで下げる厳格降圧群と,140mmHg未満の標準降圧群の心血管合併症発症率を比較する。
対象:次の条件の9361例。50歳以上,SBPが130mmHg以上で,下記の危険因子を1つ以上満たすもの:臨床的・無症候性心血管疾患(CVD)(脳卒中を除く),慢性腎臓病(CKD),フラミンガムリスクスコア(10年間のCVD発症リスク)が15%以上,75歳以上。ただし,糖尿病合併例と脳卒中既往例は除外。
主要エンドポイント:心筋梗塞(myocardial infarction:MI),急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS),脳卒中,急性心不全,心血管死の複合エンドポイント。
方法:目標SBPが120mmHg未満の厳格降圧群4678例と135~139mmHgの標準降圧群(4683例)への前向きランダム化比較試験。PROBE(prospective randomized open blinded-endpoint)法。
血圧測定は,医師のいない部屋で5分安静後,自動血圧計を用いて坐位にて3回測定した平均値を採用した。受診は月1回×3カ月,以後は3カ月ごとに行った。
追跡期間は平均5年を予定していたが,厳格降圧群で主要エンドポイント発生が有意に少ないことが判明したため,予定より早期に3.26年で終了した。
結果:使用降圧薬数は厳格降圧群で2.8剤,標準降圧群で1.8剤。SBPの変化(ベースライン→追跡終了時)は,厳格降圧群で139.7→121.5mmHg,標準降圧群で139.7→134.6mmHg。
[主要アウトカム]
厳格降圧群は標準降圧群に比べて,有意に発生率が低かった〔243例[1.65%/年]vs. 319例[2.19%/年]:ハザード比0.75,95%信頼区間;0.64~0.89,P<0.001,NNT(number needed to treat:エンドポイントに到達する患者を1人減らすために必要とされる治療患者数)=61〕(図1)。
[副次アウトカム]
厳格降圧群のほうが,急性心不全(0.41% vs. 0.67%/年,P=0.002),心血管死(0.25% vs. 0.43%/年,P=0.005,NNT=172),全死亡(1.03% vs. 1.40%/年,P=0.003,NNT=90)の発症率が低かったが,MI,ACS,脳卒中については有意差を認めなかった。厳格降圧群は,重篤な有害事象のうち低血圧(2.4%vs. 1.4%,P=0.001),失神(2.3%vs. 1.7%,P=0.05),電解質異常(3.1%vs. 2.3%,P=0.02),急性腎障害・腎不全(4.1%vs. 2.5%,P<0.001)が多かった。
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