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黄斑円孔[私の治療]

No.5128 (2022年08月06日発行) P.51

井上 真 (杏林大学医学部付属病院眼科(アイセンター)教授)

登録日: 2022-08-04

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  • 黄斑円孔は,文字通り黄斑部に円形の孔が生じる疾患であり,Gassによるstage分類が用いられている1)。当初は検眼鏡的なstage分類であったが,近年の光干渉断層計(OCT)による解析で改訂され,現在でも使用されている。stage 1は硝子体牽引による中心窩内の網膜囊胞と挙上,stage 2は中心窩の囊胞内層の部分的な開裂,stage 3は円孔蓋を伴った黄斑円孔の形成,stage 4は後部硝子体剝離(PVD)となっている。

    黄斑円孔手術は1991年にKellyとWendelら2)により,PVDを作成してガスタンポナーデを行う硝子体手術の有効性が報告されて以来,急速に広まった術式のひとつである。導入初期には人工的PVDの作成方法や意図的内境界膜剝離などの是非が議論になり,また液空気置換時に生じる網膜表面の乾燥による耳側視野欠損,内境界膜の生体染色であるインドシアニングリーン(ICG)の網膜毒性など種々の問題があった。しかし,現在ではその原因が解明されたため,ほぼ解決された問題になっている。さらにトリアムシノロンアセトニドを用いて確実に残存硝子体皮質が除去できるようになった。また,網膜毒性の少ないブリリアントブルーGによる内境界膜染色もできるようになり,術後の合併症はさらに軽減した。難治性黄斑円孔に対してもMichalewskaらが開発した内境界膜翻転法で治療できるようになった3)。強度近視で大きな黄斑円孔は難治性とされていたが,自家網膜移植の術式も報告されている。

    ▶診断のポイント

    診断にはOCTによる観察が最も有効である。OCTによって黄斑円孔が全層円孔であるかどうか,硝子体牽引の残存,円孔径も測定できる。眼底自発蛍光検査では黄斑円孔の部分は過蛍光の部分として確認される。

    Watzke-Allen試験も有用な方法である。まず細隙灯顕微鏡で前置レンズを用いて黄斑円孔にスリット光の中心を当て,どのように見えるか患者に聞いてみる。ここで黄斑円孔の円孔径より幅の狭いスリット光にしなくてはならないことに注意する。新鮮な黄斑円孔であれば,スリット光はつながった一本の縦の光束として自覚されるが,黄斑円孔に一致する部位でスリット光の幅が狭まって自覚される。一方,陳旧性の黄斑円孔であれば,スリット光が途切れて見える。これは黄斑円孔周囲の視細胞が萎縮しているためで,手術適応はない。

    一般的に,術後良好な視力回復が得られやすい症例は発症6カ月以内で,視力の回復がある程度望めるのは発症2年以内と言われている。そこで,発症2年以上が経過した症例は黄斑円孔の閉鎖率が不良であることに加えて,たとえ手術で円孔が閉鎖しても視力の回復が望めないため,手術すべきではない。僚眼の視力が良好であれば,黄斑円孔の発症に気づかない場合も多い。そこで,発症期間だけでは判断せず,検眼鏡的な所見も参考にしなければならない。

    陳旧性黄斑円孔の所見は,円孔の境界が不鮮明で比較的円孔径が大きく,fluid cuff(円孔縁の網膜の浮き上がり)が減少して,円孔の形態は扁平となる。患者の自覚症状は中心暗点がより明確になる。

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