糖尿病(DM)患者に対する、収縮期血圧(SBP)降圧目標を「140mmHg未満」よりも大幅に引き下げる「積極的降圧」の有用性は、それを証明すべく5000例弱を平均4.7年観察したランダム化比較試験(RCT)“ACCORD”で確認されず[ACCORD Study Group. 2010]、その後のメタ解析でも、2型DMが「SBP<140mmHg」なら、それ以上の降圧は心血管系(CV)疾患を抑制していなかった[Emdin CA, et al. 2015]。
これらのエビデンスにより、DM例に対する積極的降圧の有用性は否定されるのだろうか。そのような問へのヒントを得られるメタ解析が、7月22日、Lancet Diabetes Endocrinol誌ウェブサイトで公開された[Nazarzadeh M, et al. 2022]。
「BPLTTCメタ解析」として知られる研究で、事前に定められた基準に適合するRCTを前向きに登録し、患者個々のデータを用いた解析を実施するのが特徴である。
今回解析対象となったのは、51の降圧RCTに参加した35万8533例である。うち10万3325例にDM診断歴があった(DM例)。DM例を対象とした降圧メタ解析としては、最大規模である。
その結果、まず、降圧に伴う「脳血管障害・虚血性心疾患・心不全死/入院」(CVイベント)減少作用は、DM、非DM例とも、試験前SBPの高低(「<120」~「≧170」mmHg)に、影響を受けていなかった(交互作用P=1.00)。
ただし、DM例では非DM例に比べ、「降圧に伴うCVイベント相対リスク減少率」が減弱する傾向がみられた。
たとえば、SBP「5mmHg」低下に伴う「CVイベント」ハザード比(HR)は、DM例では0.94(95%信頼区間[CI]:0.91-0.98)であり、非DM例(0.89:0.87-0.92)に比べると相対リスク減少率は低い(このリスク減少率の差は、DM合併の有無に有意な影響を受けていた)。
同様に、SBP低下幅とCVイベントHRの間には、DMの有無を問わず負の相関が認められたものの、DM群の回帰直線の傾きは、非DM群に比べゆるやかだった(検定なし)。
原著者らはこれらより、DMへの降圧治療は(非DM例より効果は弱いものの)、治療開始時血圧の高低を問わず、降圧幅の増加に伴いCVイベントリスクを低下させると主張している。
なお、DM例では、5mmHgの降圧に伴う、CV死亡のHRは1.03(95%CI:0.97-1.10)、総死亡は1.00(同:0.96-1.04)だった。いずれも、治療開始時血圧の高低に影響は受けていない。
BPLTTC研究は、英国心臓財団、英国国立健康研究所、Oxford Martin Schoolから資金提供を受けている。