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複視[私の治療]

No.5132 (2022年09月03日発行) P.42

後関利明 (国際医療福祉大学熱海病院眼科部長/准教授)

登録日: 2022-09-05

最終更新日: 2022-08-31

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  • 複視とは両眼性複視を指すことが一般的であり,軽症例では単眼性複視の代表である乱視と誤解されることもある。代表的な複視の原因疾患には,眼運動神経麻痺(Ⅲ,Ⅳ,Ⅵ),sagging eye syndrome(SES),外斜視,甲状腺眼症,重症筋無力症などが挙げられる1)2)。治療は原因疾患によって異なるが,プリズム眼鏡,ボツリヌス毒素療法,斜視手術などが一般的である。

    ▶診断のポイント

    片眼を隠し,複視が消失する場合は両眼性複視,消失しない場合は単眼性複視である。両眼性複視の急性発症は頭蓋内疾患の可能性があるため,緊急的に精査を行う。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    片眼性複視の際は,眼内疾患の精査を行う。角膜・水晶体・網膜など,眼球のどの部位に異常があっても,片眼性複視の原因となる。治療は別稿にゆだねる。また,遠視・近視・乱視などの屈折異常も片眼性複視の原因となる。眼鏡やコンタクトレンズで治療可能である。

    両眼性複視の治療は,原因ごとに異なるため,原因精査を優先させる。特に急性発症の際は頭蓋内疾患の可能性があるため,頭部MRIをはじめとした頭部精査を行うようにする。緩徐な進行の場合は,外眼筋の変性疾患や加齢に伴う疾患を疑う。近年では長時間のデジタルデバイス視聴のような,過度の近業作業に伴う内斜視は発症も進行も緩徐であるので,注意深く問診するように心がける。

    日内変動も重要な所見である。重症筋無力症は,朝調子がよく,夕方悪化する。逆に甲状腺眼症は,朝調子が悪く,夕方は改善傾向を示す。抗アセチルコリン受容体抗体,甲状腺ホルモン(TSH,FT3,FT4),甲状腺関連自己抗体〔TSH刺激性レセプター抗体(TSAb),抗TSHレセプター抗体(TRAb),抗Tg抗体(抗サイログロブリン抗体),抗TPO抗体(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)〕,血糖,HbA1cを採血にて検査する。全身疾患の既往を聴取し,血管系イベントを起こしやすい高血圧や糖尿病には気を配るようにする。

    眼運動神経麻痺の原因の第1位は血管性3)であり,3カ月程度で80%以上が自然治癒するため経過観察する。一方,SESや外斜視は経過観察しても改善することはないため,診断がついたら治療を行う。SESは比較的新しい疾患概念であり,診断は臨床所見で行う。SESは年齢とともに発症率が高くなる加齢性斜視で,開散麻痺様の遠見内斜視and/or外方回旋偏位を伴う小角度上下斜視を呈し,眼瞼下垂やbaggy eyelidのような眼球周囲の付属器の加齢性変化も伴うのが特徴である。

    甲状腺眼症や重症筋無力症が原因疾患の場合は,その治療を行うことで改善することがあるので,全身的な治療を内科に依頼する。症状が変動するうちは,フレネル膜プリズムや片眼遮蔽で対応し,症状が安定したら,斜視手術を行う。甲状腺眼症にはボツリヌス毒素療法も選択肢に挙がる。観血的治療が困難な場合や希望がない場合は,小角度であれば組み込みプリズム眼鏡が適応となり,大角度であれば,フレネル膜プリズムや片眼遮蔽での治療となる。

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