ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA、アルドステロン阻害薬)は、左室収縮力低下心不全(HFrEF)に対する基本的治療薬である。わが国の心不全ガイドラインでも、HFrEFにクラス「Ⅰ」で推奨されている[急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)]。その一方スウェーデンの研究だが、HFrEF例における使用率は約5割で、さらにMRA開始例の約3割が、その後服用を中止していたと報告されている[Thorvaldsen T, et al. 2016.]。この3割に上るMRA中止は、適切に実施されているのだろうか。そのような問いに応えるべく、同じくスウェーデンのAnna Jonsson Holmdahl氏らがOpenHeart誌に報告した研究が、話題を呼んでいる[Holmdahl AJ, et al. 2022.]。9月1日にウェブサイト上で先行公開された。
Holmdahl氏らが解析対象としたのは、自施設でMRA開始が確認できた572例のHFrEF患者である。今回調査では、51.9%がMRAを中止していた。
そこでMRA中止理由を調べると、最多は「腎機能低下」だった(33%)。 しかし中止例の中には、ESC心不全ガイドライン[McDonagh TA, et al. 2021.]が「MRA減量基準」としている「eGFR<30mL/分/1.73m2」にすら該当してない例が44%もいた。
同様に、「血清カリウム(K)値上昇」でMRAを中止した24%のうち68%は、ガイドラインが減量考慮を推奨する「>5.5mmol/L」にも達していなかった。
またMRA中止の有無との因果関係は明らかでないが、MRA継続群では、中止群に比べ、死亡リスクは有意に低くなっていた(22 vs. 41%、P<0.001。平均追跡期間:837日)。
ガイドラインが減量・中止を推奨する検査値への増悪を待たずに、MRAが中止される理由として、Holmdahl氏らは、服用開始後のフォローアップ機会が不十分だった可能性を挙げている。ちなみに前出のESCガイドラインではMRAのモニタリング機会として、「開始・増量の1、4、8、12週間後、6、9、12カ月後、それ以降は4カ月に一度」を推奨している。
なお、血清K値がMRA中止を考慮すべきほど上昇していないのに中止された例では、約半数で腎機能低下も認められた。腎機能低下例では重篤な高K血症のリスクが上がるため、大事をとった可能性も考えられるという。ただし今回の観察では、MRA中止時に重篤な高K血症を認めたのは、3%のみだったという。
加えてHolmdahl氏らは、「心機能回復」をMRA中止の目安にしないよう警告している。拡張型心筋症対象のランダム化比較試験(TRED-HR)だが、MRAなどの心保護薬服用下で心機能改善後、それらの薬剤を中止すると心機能は再び低下した[Halliday BP, et al. 2018.]。
本研究に関し、申告すべき資金提供元はないとされる。