発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH)は,造血幹細胞の遺伝子(主としてPIG-A)異常によりGPIアンカー蛋白が欠損し,補体制御蛋白であるCD55とCD59が欠失した赤血球が,補体活性化により慢性的血管内溶血を起こす疾患である。骨髄不全に伴う様々な程度の汎血球減少と,血栓症や肺高血圧症など血管内溶血に伴う多彩な症状を伴う。
直接クームス試験陰性の溶血性貧血や原因不明の血栓症や汎血球減少をみた場合に,赤血球および顆粒球のフローサイトメトリーでCD59陰性血球(PNH血球)を検索する。赤血球中のPNH血球が1%以上で血清LDHが正常の1.5倍以上であれば,臨床的(溶血を伴う)PNHと診断できる。病名の由来となった夜間〜朝方のワイン(コーラ)色のヘモグロビン尿は3割程度の症例でみられるにすぎない。
PNHは指定難病であり,まず難病申請を行う。医療費助成の対象は中等症と重症である。重症度1)と病態に応じて治療方針を考えるが,軽症では基本的に経過観察を行う。中等症以上では抗補体療法を行うかどうかがポイントとなるが,病態に応じて大きく①溶血に対する治療,②血栓症に対する治療,③骨髄不全に対する治療,にわけて考える。
中等症はLDH値が正常上限の3〜5倍程度,もしくはヘモグロビン尿を主徴とする溶血発作を年に1,2回程度認める場合である。溶血に伴う臓器障害,急性腎障害,慢性腎障害のステージの進行が認められる場合,平滑筋調節障害に基づく嚥下障害や胸腹部痛があるが日常生活は可能な場合,男性機能不全も中等症である。
重症は高度溶血でLDHが8〜10倍以上の場合や年に数回以上の溶血発作を認める場合,溶血による赤血球輸血依存のほか,中等症でみられる症状で入院を要する場合,血栓症の既往や合併,透析を要する腎障害,肺高血圧症,妊娠が含まれる。中等症は抗補体療法の相対的適応,重症は絶対的適応である。
①溶血に対する治療:中等症以上ではソリリス®(エクリズマブ)やユルトミリス®(ラブリズマブ)による抗補体療法が中心となる。抗補体療法中は莢膜を持つ細菌による感染リスクが高まり,特に侵襲性髄膜炎菌感染症は致死的になりうるため,投与開始2週間以上前にメナクトラ®(4価髄膜炎菌ワクチン)の接種を行う。抗補体療法の導入を急ぐ際にはワクチン接種後2週間までレボフロキサシン水和物などの抗菌薬内服を併用する。
貧血に対しては必要に応じて赤血球輸血を行う。葉酸欠乏や鉄欠乏を合併している場合にはその補充を行うが,抗補体療法未導入の場合は溶血が増悪することがあるので,慎重に行う。溶血発作時には感染症など誘因の除去と輸液やハプトグロビン製剤,ステロイド投与を適宜行う。
②血栓症に対する治療:急性期には通常の血栓症の適応に応じてt-PA製剤やヘパリン製剤を投与する。既往患者には予防としてワルファリンカリウムや経口直接Xa阻害薬(DOAC)の内服も行うが,エクリズマブやラブリズマブには血栓予防・改善効果もあり,血栓症の合併や既往は重症として抗補体療法の適応である。
③骨髄不全に対する治療:再生不良性貧血の治療2)に準じる。
上述の①〜③によっても生命予後に関わるような病態,特に重度の骨髄不全がある場合は同種造血幹細胞移植を考慮する。
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