2型糖尿病(DM)への血糖低下治療による、大血管症(心血管系[CV]イベント)抑制作用に「遺産効果」(Legacy Effect)―早期の厳格血糖低下が遠隔期のCVイベントを抑制―はあるのか。否定的なデータが続く中(後出)、「遺産効果」という概念そのものを生み出したUKPDS試験から、再び肯定的なデータが報告された。19日からストックホルム(スウェーデン)で開催された欧州糖尿病学会(EASD)における、Rury R. Holman氏(オックスフォード大学、英国)の報告を紹介する。
簡単に振り返っておくと、UKPDS試験はよく知られているように、2型DMを対象に「生活改善」(主に食事指導)と「メトホルミン」「インスリン、またはSU剤」の糖尿病性合併症抑制作用が比較された、英国のランダム化比較試験(RCT)である。25~65歳で「空腹時血糖値>108mg/dL」だった新規診断2型DM 4209例がランダム化された。
約10年間(中央値)観察後、「メトホルミン」群では「生活改善」群に比べ、「心筋梗塞」と「死亡」のリスクが有意に低下していたのに対し[UKPDS34. 1998.]、「インスリン/SU剤」群ではリスク低下が認められなかった[UKPDS33. 1998.]。
しかし試験終了(通常DM治療に復帰)から10年後の評価では、元「インスリン/SU剤」群でも、「生活改善」群に比べ、「心筋梗塞」「死亡」リスクの有意低下が観察された[UKPDS80. 2008.]。この結果から、早期血糖低下による「遺産効果」の存在が提唱されるようになった。
今回報告されたのは、上記UKPDS80からさらに14年間(試験開始から44年間)観察した結果である。ただし、参加23施設中、スコットランドと北アイルランド4施設のデータは、まだ含まれていない。
その結果、元「インスリン/SU剤」群ではやはり、元「生活改善」群に比べ、「心筋梗塞」「総死亡」とも有意なリスク減少が維持されていた。「心筋梗塞」ハザード比(HR)はUKPDS試験終了10年後の0.85(95%信頼区間[CI]:0.74-0.97)からその後14年間、一貫して元「生活改善」群よりも有意低値を維持し、最終的なHRは0.74だった(「総死亡」も同様。HR:0.87→0.89)。
元「メトホルミン」群でも、「心筋梗塞」「総死亡」リスク抑制は維持されていた。元「生活改善」群と比べた「心筋梗塞」HRは、UKPDS試験終了10年後の0.67(95%CI:0.51–0.89)から、さらに14年後の0.69まで、一貫して有意低値が保たれていた(「総死亡」も同様。HR:0.73→0.75)。
なお、これら元「メトホルミン」群におけるイベント減少は、元「インスリン/SU剤」群よりも早期から認められ、また減少率も大きい。メトホルミンは血糖低下以外の保護作用(抗炎症作用など)を有する可能性があるという。
結論としてHolman氏は、早期血糖低下による「遺産効果」は長期間にわたり維持されるとした。そして2型DM例に対する厳格血糖管理は可能な限り早期から実施すべきであり、近年、心腎保護作用が示された血糖降下薬を用いている場合でも、血糖値は正常値近くまで低下させるべきだと主張した。
なお、UKPDS試験と異なり対照群も血糖降下薬を服用したRCTでは、早期厳格血糖低下に伴うCVイベント抑制「遺産効果」は認められていない[ADVANCE-ON. 2014.、ACCORDION. 2016.、VADT. 2019.]。