近年、2型糖尿病(DM)に対する、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬(RA)の心血管系(CV)イベント抑制作用がいくつかのランダム化比較試験(RCT)で報告される一方、DPP-4阻害薬ではそのような作用が確認されていない[Joseph JJ, et al. 2022.]。
しかしこれらの試験はいずれもCV疾患高リスク例、すなわちCV疾患既往を有する2次予防、あるいはCV疾患高リスク因子を持つ1次予防2型DM―を対象としており、CV疾患リスクがより低い2型DMにおける有用性は不明である。ちなみに、わが国の2型DM例を対象に実施されたRCTである"J-DOIT3"の登録例を見ると、90%近くがCV疾患1次予防である[Ueki K, et al. 2017.]。
GRADE試験は、そのようなCV疾患低リスク2型DM例を対象に、血糖降下薬による大小血管症抑制作用を比較したRCTである。9月21日、N Engl J Med誌ウェブサイトに論文が掲載された[GRADE Study Research Group. 2022.]。原著者の結論は、インスリンとSU剤、GLP-1-RA、DPP-4阻害薬間に、大小血管症とも抑制作用に大きな差はない、というものだった。
GRADE試験の対象は、診断から10年以内のCV疾患低リスク2型DM中、メトホルミン(≧500mg/日)服用下でHbA1c「6.8~8.5%」だった5047例である。メトホルミン以外の血糖降下薬併用例は除外されている。また直近1年間のCVイベント既往例、また心不全、あるいは腎機能低下を認めた例も除外されている。
平均年齢は57.2歳(60歳以上が41.5%)、男性が63.6%を占めた。人種は65.7%が白人で、アジア人は3.6%だった。BMI平均は34.3kg/m2、HbA1c平均値は7.5%だった。
これら5047例はメトホルミンを継続の上、インスリン群とSU剤群、GLP-1-RA群、DPP-4阻害薬群にランダム化され、非盲検下で追跡された。なおこれら4剤が選ばれたのは、試験開始時にメトホルミンとの併用がFDAから認められており、かつ頻用されていたためだという。
その結果、まずHbA1c平均値は、試験開始4年後の時点で、インスリン群とGLP-1-RA群はともに7.1%、DPP-4阻害薬群が7.2%、SU剤群は7.3%だった。
そして平均5年間の観察期間中の「CV疾患死亡・心筋梗塞・脳卒中」リスクを比較すると、他3剤に比べ有意に低かった薬剤はなかった。発生率は、インスリン群:5.2%、SU剤群:4.7%、GLP-1-RA群:3.8%、DPP-4阻害薬群:5.5%である。
一方、「心不全入院リスク」を比較すると、GLP-1-RAで、他3剤に比べ有意に低くなっていた(ハザード比[HR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.28-0.86)。なおDPP-4阻害薬ではHR:1.35(95%CI:0.87-2.08)となり、有意なリスク増加は認められなかった。
GLP-1-RAでは「CV疾患死亡」リスク(HR:0.47、95%CI:0.23-0.95)、「総死亡」リスク(同:0.64、0.42-0.97)も、他3剤に比べて有意に低かった。
GLP-1-RAによるCV有用性は、先行するより高リスク2型DM例対象のRCTと同様だが、GRADE試験はCVイベントの群間差を検討できるだけの検出力がない点に、原著者は注意を呼びかけている。
細小血管症については、4剤間に実質的な違いは認められなかった。 本試験は米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所、国立心肺血液研究所などからの資金提供を受けて実施された。製薬会社からは試験薬の提供を受けた。 高血圧領域におけるALLHAT試験[ALLHAT CRG. 2002.]を思い出させる臨床試験だった。