不随意に眼輪筋が収縮し閉瞼してしまう瞬目の異常で,重症化すると開瞼が困難となり,機能的失明状態となる。ただし,病初期は瞬きが多い,まぶしい,痛いなど,ドライアイに類似した臨床症状を呈し,眼瞼痙攣と正しく診断されないことが問題となる。本態性眼瞼痙攣のほかに,薬剤性,症候性などがある。40歳代以降の女性に多い。
不随意な閉瞼のため,運転をやめた,外出を控えるようになった,電柱にぶつかったなど,ドライアイではみられない重篤な臨床症状が特徴である。羞明は外出時だけでなく室内でも感じ,目を閉じていたほうが楽と訴え,手で無理やり開瞼しないと容易には開瞼しないことも多い。本人は開瞼を試みているが,眉毛は眼窩上縁よりも下に位置するCharcot徴候を認める(加齢性眼瞼下垂との鑑別点)。また,眉毛外側や頰部など,ある部位を強く押したり触れたりすることで開瞼が容易になる感覚トリックをみることがある。
診断には瞬目テストを用いる。瞬目テストには,速瞬テスト(できるだけ速い瞬き),軽瞬テスト(軽い瞬き),強瞬テスト(強く閉じて開ける瞬き)がある。臨床的には速瞬テストが用いやすい(最低でも10秒間,できるだけ速い瞬きをさせ,瞬きの途中でリズミカルな瞬目が途切れたり,他の顔面筋の不随意な攣縮がみられたりする場合,陽性とする)。
すべての患者に,羞明に対する遮光眼鏡,感覚トリックを利用したクラッチ眼鏡の装用を勧める。劇的な効果は期待できないが,長期的には効果が期待できる。
現在,ボツリヌスA型毒素療法〔ボトックス®注(A型ボツリヌス毒素)〕が最も有効な治療法である。ただし,効果持続期間は平均約3カ月である。ボトックス®1.25単位を眼周囲に6箇所(眼瞼部眼輪筋4箇所,眼窩部眼輪筋2箇所)ずつ両眼瞼に注射すると,おおよそ3日~1週間で効果が現れる。1回の注射で45単位を超えない,注射間隔は8週間以上,が添付文書に記載されている。1.25単位で効果が弱い場合は,2単位,2.5単位と濃度を上げたり,鼻根部や皺眉筋に投与部位を増やすなど,患者に合わせて投与濃度,部位を考慮する。
ボトックス®治療に抵抗する場合は眼瞼手術を併用する。眼瞼手術はあくまで補助的な効果(ボトックス®注射の効果を上げる)を期待したものであり,根治術ではない。
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