現在、心房細動例への降圧目標は、日本高血圧学会ガイドラインが「収縮期血圧(SBP)<130mmHg」を推奨している。しかしこれは診察室血圧であり、家庭測定における至適血圧は不明だった。この点につき、わが国の大規模レジストリであるANAFIE(All Nippon AF in the Elderly)からの報告が10月19日、米国心臓協会発行のHypertension誌に掲載された[Kario K, et al. 2022.]。高齢心房細動例では、家庭測定SBPが「≧145mmHg」となったら要注意のようだ。
ANAFIEレジストリは、外来受診可能な75歳以上の非弁膜症性心房細動例を登録した前向き観察研究である。3万2275例が登録されている。 今回の解析対象は、家庭血圧測定に同意した4933例。平均年齢は81.4歳、男性が56.2%を占め、93.0%が経口抗凝固薬を服用していた。
観察開始から2年間で2.3%(115例)が「脳卒中・全身性塞栓症」を発症し、「大出血」も1.5%(76例)で認められた。 そこで「脳卒中・全身性塞栓症・大出血」(心血管系[CV]イベント)発生率と観察開始時家庭血圧との関係を解析した。
その結果、家庭測定「SBP<125mmHg」(全体の41%)に比べ「CVイベント」リスクの有意増加を認めたのは「SBP≧145mmHg」群(9%)のみだった(ハザード比[HR]:1.92、95%信頼区間[CI]:1.21-3.06)。 一方、SBP「135-<145mmHg」群(18%)、「125-<135mmHg」群(32%)では、「<125mmHg」群と有意差を認めなかった。
「総死亡」リスクも同様でSBP「<120mmHg」群に比べ有意に高かったのは「≧145mmHg」群のみだった(「135-<145mmHg」群では有意低値[Jカーブ現象])。ただしCV死亡リスクは、SBP「<120mmHg」群と「135-<145mmHg」群間に差がなかった。
この結果は「発生率比」で比較しても、同様だった。
一方、診察室血圧は、SBP「<130mmHg」、「130-<140mmHg」、「140-<160mmHg」、「≧160mmHg」の4群間で「CVイベント」発生率比に有意差はなく、血圧高値に伴うリスク増加傾向も認められなかった。
ただしANAFIEレジストリ全体、すなわち3万2275例での検討では、診察室測定SBP「<130mmHg」群に比べ「≧140mmHg」群で「脳卒中・全身性塞栓症」リスクは有意増加が報告されている(HR:1.31、95%CI:1.12–1.54)。「大出血」も有意差とはならないが同様の傾向を示した(同:1.14、0.93–1.39)[Yamashita T, et al. 2022.]。今回の解析とは若干異なって映る。原著者は今回の解析が家庭血圧測定に応じた集団だった点に触れ、「選択バイアス」がかかった可能性を指摘している。
本研究は、第一三共株式会社から資金的支援を受け実施された。