サイアザイド類似薬のクロルタリドン(CTD)は、サイアザイド系利尿薬のヒドロクロロチアジド(HCTZ)に比べ心血管系(CV)イベント抑制作用が強力である可能性が、メタ解析などから示唆されていた[Roush GC, et al. 2021]。そのためSHEP、ALLHATなどで示されたCTDのエビデンスをそのままHCTZに当てはめうるかという疑問が、特にCTDがもはや流通していない日本では呈されることも多かった。
しかしこのたび、ランダム化比較試験“DCP”(Diuretic Comparison Project)で直接比較が実施され、「CVイベント」と「がん以外による死亡」抑制作用については、両剤間に差がないことが明らかになった。11月5日からシカゴ(米国)で開催された米国心臓協会(AHA)学術集会におけるAreef Ishani氏(ミネアポリスVA医療センター、米国)の報告を紹介する。
DCP試験の対象は、高血圧と診断され、HCTZ 25mg/日または50mg/日服用下で収縮期血圧(SBP)「≧120mmHg」だった65歳以上の1万3523例である。
平均年齢は73歳、男性が97%、黒人が15%を占めた。HCTZの用量は、95%が「25mg/日」だった。診察室SBP平均値は139mmHgである。
これら1万3523例はHCTZを継続する群(HCTZ群)と、CTDに切り替える群(CTD群)にランダム化され、非盲検下で平均2.4年間観察された。CTDの用量はHCTZ 25mg服用例ならば12.5mg、50mgならば25mgへ変更された[Ishani A, et al. 2022]。
まず血圧だが、試験期間を通じ両群間に差はなかった。またカリウム(K)製剤の併用率は観察開始時の11%から、HCTZ群ではそのまま推移したが、CTD群では14%前後まで上昇した。
その結果、1次評価項目である「脳卒中・心筋梗塞・緊急血行再建を要する不安定狭心症・急性心不全入院、またはがん以外による死亡」のCTD群ハザード比(HR)は1.04(95%信頼区間[CI]:0.94-1.16)でHCTZ群と有意差を認めなかった。
また上記CVイベントを個別に比較しても、同様の結果だった。
事前設定サブグループ解析もほぼ同様で、年齢の高低、性別、人種別の解析、あるいはeGFR「60mL/分/1.73m2」の上下、糖尿病合併の有無、開始時SBP「136mmHg」の上下で分けても、有意な交互作用はなく、一貫して両群間の1次評価項目リスクに差はなかった。
ただし唯一の例外が「心筋梗塞・脳卒中」既往の有無だった。これら既往がなかった例(全体の89%)では、CTD群における上記1次評価項目HRは1.12(95%CI:1.00-1.26)、既往例では0.73(同:0.57-0.94)となり、交互作用P値は0.035だった。ただしIshani氏はこの知見を「偶然」(Chance)と見ているようである。
有害事象は、低K血症がCTD群で有意に多く見られた(6.0 vs. 4.4%)。
この結果に対し、指定討論者のDaniel Levy氏(国立心肺血液研究所、米国)は以下の2点を指摘した。
1つ目は「HCTZに有利な試験デザイン」だった可能性である。すなわち試験参加例は全例、HCTZ服用中の高血圧例だった。そのため同薬への反応が良く、なおかつ有害事象の少ない患者が選ばれているバイアスの可能性がある。
もう1点は、「女性」や「65歳以下」に本結果が当てはまるかどうかという疑問だった。
本試験はVA Office of Research and Developmentをスポンサーとして実施された。また研究者主導で安価にランダム化試験を実施すべく、電子診療記録(Electronic Medical Records)を活用し、参加施設に治験スタッフがいないなど臨床試験の形としても画期的な試みだった。