真菌(カビ)による角膜の感染症で,わが国では感染性角膜炎の原因の5~10%を占める。原因の真菌には酵母と糸状菌があり,酵母はほとんどがカンジダ属である。発症誘因としては長期のステロイド点眼,植物による眼外傷,コンタクトレンズ装用などがある。真菌性角膜炎と同義である。
充血,異物感,眼痛,流涙,視力低下などの症状がみられ,細菌性角膜炎に比べて進行が遅い。抗菌薬を点眼しても徐々に悪化する感染性角膜炎では本症を疑う。典型的な角膜所見には,カラーボタン様病変(カンジダ属の場合),羽毛状病変(糸状菌の場合),角膜内皮プラークがある。ステロイド点眼が行われていると炎症所見がマスクされ感染症にみえなくなるので,注意が必要である。
角膜真菌症は難治で再発もしやすいため,治療には数カ月以上を要する。角膜擦過物の鏡検や培養を行って確実に診断する必要がある。角膜擦過には病巣を除去し菌量を減らす効果があり,また角膜上皮が除去されることで抗真菌薬の角膜実質内への移行を高めるため,積極的に行うべきである。
角膜真菌症に認可された治療薬はピマリシン(5%ピマリシン点眼,1%ピマリシン眼軟膏)しかない。ピマリシン以外の抗真菌薬を使用する場合は自家調剤が必要である。ピマリシンはポリエン系であり強力な抗真菌作用を持つが,刺激感や角膜上皮障害が強いことに注意が必要である。
酵母(カンジダ属)が原因の場合,抗真菌薬はポリエン系(ピマリシン)またはアゾール系(フルコナゾールまたはボリコナゾール)を選択する。フルコナゾールは点滴薬をそのまま(0.2%濃度)点眼瓶に分注して使用できる。ボリコナゾールは点滴薬を1%濃度に自家調剤し,点眼する。カンジダ角膜炎は初期治療には反応しやすいが,角膜移植後など基礎疾患がありステロイド点眼が行われている場合は管理が難しい。
角膜真菌症の原因となる糸状菌のうち,最多はフザリウム属である。フザリウム属以外はペシロマイセス属,アスペルギルス属,アルテルナリア属など多岐にわたる。フザリウム属による角膜真菌症は進行が速く,重症化しやすい。したがって,糸状菌による角膜真菌症ではまず,フザリウム属を想定した治療を行うほうがよい。フザリウム属に対してはポリエン系が有効である。フザリウム属以外の糸状菌にはボリコナゾールが有効であることが多く,自家調剤が可能であればボリコナゾール点眼を使用する。菌種によってはミコナゾールやミカファンギン点眼も有効な場合があるが,いずれも自家調剤が必要である。
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