正常心での心房-心室間伝導は,房室結節のみを介してなされ,それ以外の房室弁輪部は線維輪で絶縁されている。Wolff-Parkinson-White(WPW)症候群は,房室結節以外の弁輪部で,心房-心室間を伝導する副伝導路(Kent束)を有する疾患である。そのため,Kent束を介した種々の頻拍が生じうる。
Kent束を順行性(心房から心室へ)に伝導する病態で,逆行性(心室から心房へ)の伝導の有無は問わない。緩徐な伝導である房室結節よりもKent束が速く伝導するため,心電図では,PR間隔の短縮とデルタ波を認め,QRS幅の延長をきたす。
Kent束を逆行性(心室から心房へ)にのみ伝導する。デルタ波は認められない。
間欠的にデルタ波を認める。
順方向性のAVRT(orthodromic AVRT:ORT)では,心房→房室結節を順伝導→心室→Kent束を逆伝導→心房の順で旋回する。AVRTの約90%はこれにあたる。頻拍中の心電図の特徴として,narrow QRS頻拍,QRS直後に逆行性P波が認められる。
心房→Kent束を順伝導→心室→房室結節を逆伝導→心房の順で旋回し,wide QRS頻拍を呈するAVRTを,逆方向性AVRT(antidromic AVRT:ART)という。
心房細動合併時には,房室結節とKent束の両者を伝導する。wide QRS頻拍を呈し,一見心室頻拍と似ているため,偽性心室頻拍と呼ばれる。心室頻拍との鑑別として,RR間隔の絶対不整と,房室結節とKent束の伝導能の差からQRS波形が心拍ごとに異なる点が挙げられる。
WPW症候群に対する高周波カテーテルアブレーションは,成功率は約95%と高く,重症合併症発生率は2~3%と低く,根治を期待できる治療法である1)2)。根治できた場合には,動悸発作は消失し,通院や服薬も不要となるなど,非常に優れた治療方法である。そのため,有症候性のWPW症候群に対しては,第一選択の治療である。
無症候性WPW症候群は基本的には予後良好であるが,心房細動を発症し,めまいや失神を伴う場合や心房細動中の最短RR間隔が250ms以下の場合,突然死のリスクがあるため,カテーテルアブレーション治療が推奨される。また,無症状であっても,初回の発作により人命に関わる重大な事故を生じる可能性がある職業運転手や,競技スポーツ選手に対してもカテーテルアブレーション治療が考慮される。
残り1,240文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する