知的障害の原因として,遺伝が重要であることは古くから知られていた。しかし,従来の遺伝学的解析法では,原因の遺伝子や染色体領域がわかっていなければ確定診断は不可能であった。この問題を解決したのが,網羅的遺伝学的診断技術の開発で,染色体アレイ解析と次世代シーケンシング(next generation sequencing:NGS)が双璧である。
染色体アレイ解析では,染色体上の位置情報に基づいて,きわめて多数のオリゴヌクレオチドを配置したアレイを使用することにより,従来の分染法より解像力が格段に高い解析が可能になった。NGSはすべての遺伝子の翻訳領域のシーケンシングを可能にした。これらの網羅的解析は,臨床的に診断の手がかりがなくても実施できることが最大の強みである。
研究レベルではあるが,原因不明の知的障害の約15%に,染色体アレイ解析で病因としてのコピー数異常が同定される1)。さらに,NGSでは約20%に病因変異が同定され,組み合わせることで約30%の原因が同定できる1)。
実臨床にこれらの技術が用いられるには,偶発的所見への対応などの遺伝カウンセリングの整備や保険収載が必要となるが,遺伝学的情報に基づく知的障害の医療が一般的になる日も近いと考えられる。
【文献】
1)Deciphering Developmental Disorders Study: Nature. 2015;519(7542):223-8.
【解説】
齋藤伸治 名古屋市立大学新生児・小児医学教授