血友病は,凝固第Ⅷ因子または第Ⅸ因子の先天的な欠乏・欠損による出血性疾患である。第Ⅷ因子の欠乏を血友病A,第Ⅸ因子の欠乏を血友病Bと称する。また,因子活性が<1%を重症,1~5%を中等症,>5%を軽症と分類する。
重症では幼児期に止血遅延や関節腫脹などを契機に診断される。凝固スクリーニング検査でPT正常,APTT延長を認めた場合に,本疾患を疑って各凝固因子活性を測定する。
重症・中等症では,出血抑制のために不足した凝固因子を定期的に静注で補充する「定期補充療法」を考慮する1)。出血した場合,あるいは出血頻度が少ない軽症では,出血時のみ凝固因子製剤を使用する「on-demand療法」を選択する。凝固因子製剤は,特別な事情がない限り,より注射回数を減らすために改良された「半減期延長型製剤」を使用する。その場合,血友病Aで週3回から2回に,血友病Bで週2回から1~3週に1回に減らすことができる。1回量は体重(kg)当たり40〜50単位が標準であるが,患者の出血頻度や使用する製剤の規格に応じて適宜調整する。
出血時の凝固因子輸注量は,出血部位や重症度により異なる。軽度の場合には凝固因子活性を>40%,重度の出血や頭蓋内・腹腔内出血などでは>80%を維持することを目標とする。第Ⅷ因子は製剤の種類にかかわらず,おおむね1単位/kgの投与で2.0%活性値が上昇するが,第Ⅸ因子は0.7~2.0%とまちまちで,かつ個人差も大きい。手術や観血的処置の前には患者の凝固因子活性が>80%になるよう輸注する。手術時は,その活性値を少なくとも3日以上は保ち,輸注量を漸減,7〜10日後で輸注を中止する。
血友病Aで凝固因子に対するインヒビターが発生した場合には,ヘムライブラⓇ(エミシズマブ)の定期皮下注射を第一選択とする2)。出血時には,エミシズマブの追加輸注や凝固第Ⅷ因子製剤は無効のため,バイパス上血製剤〔ノボセブンⓇHI(エプタコグ アルファ),ファイバⓇ(乾燥人血液凝固因子抗体迂回活性複合体),バイクロットⓇ(乾燥濃縮人血液凝固第Ⅹ因子加活性化第Ⅶ因子)〕を添付文書の用法・用量に従い使用する。一方、インヒビター保有血友病Bには、抗TFPI薬の定期皮下注を第一選択とし、出血時には前述のバイパス止血製剤を使用する。
エミシズマブ定期注射は,インヒビター非保有血友病A患者においても十分な出血抑制が得られるので,凝固因子製剤の静注が困難,または活動性の高くない患者に対して使用を考慮する。
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