2021年、22年は、左室収縮能(EF)の著明低下を認めない心不全(HFmrEF、HFpEF)に対するSGLT2阻害薬の転帰改善作用が大規模ランダム化比較試験で確認され[EMPEROR-Preserved、DELIVER]、大きなブレークスルーとなった。そのような流れの中わが国からは、DPP-4阻害薬によるHFpEF転帰改善を示唆する観察研究が1月3日、JACC Asia誌で報告された[Enzan N, et al]。
解析に用いたのは、心不全増悪入院例を登録した多施設レジストリ"JROADHF"である。DPP-4阻害薬服用状態が明らかだった2型糖尿病(DM)合併2999例が解析対象となり、うち1130例が「EF≧50%」のHFpEFだった。
これらHFpEF例の平均年齢は77.2歳、男性が51.9%を占めた。またNYHA分類「Ⅲ、Ⅳ度」例は4.5%だった(前出EMPEROR-Preservedでは18.4%、DELIVERは24.7%)。
中央値3.6年間の観察期間中、DPP-4阻害薬を服用していた(39.3%)HFpEF例では、非服用HFpEF例に比べ、諸因子補正後の「心血管系(CV)死亡・心不全入院」ハザード比(HR)が0.69(95%信頼区間[CI]:0.55-0.87)の有意低値となっていた(HFmrEF、HFrEFでは群間に有意差なし)。
同様に、傾向スコアで背景治療などもマッチさせたHFpEF 526例で比較しても、DPP-4阻害薬服用HFpEF群における「CV死亡・心不全入院」HRは、0.74(95%CI:0.57-0.97)の有意低値だった(vs. 非服用HFpEF群)。
ただし個別に見ると「心不全入院」はDPP-4阻害薬服用HFpEF群で有意に減少していた一方(16.4 vs. 23.3%、HR:0.70、95%CI:0.53-0.93)、「CV死亡」は「5.4 vs. 4.9%」で有意差を認めなかった(HR:1.08、95%CI:0.70-1.68)。
これらの2群の発生率曲線は、「心不全入院」が試験開始後半年を待たずに乖離し始めたのに対し、「CV死亡」は開始後2.5年までほぼ重なり合ったままだった。
DPP-4阻害薬によるHFpEF転帰改善の一機序として原著者は、基礎研究で示唆されている抗心肥大作用の可能性を指摘している。
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構と厚生労働科学研究費補助金からの資金提供を受けた。