ヌーナン症候群(Noonan syndrome:NS)は,1963年にNoonanらにより初報告され,現在まで多くの知見が蓄積されている認識可能な先天異常症候群である。これまでに細胞内のRAS/MAPKシグナル伝達経路に関連する複数の原因遺伝子が同定されており,大部分が常染色体顕性(優性)遺伝形式である。臨床的には先天性心疾患と顔貌所見の組み合わせにおける特異性を認め,幅広い程度の発達遅滞,低身長をはじめとしたその他複数の合併所見にも留意が必要である。合併症治療を含む包括的医療管理が重要となる。
提唱されているわが国のNS臨床診断基準(詳細は厚生労働省「指定難病告示番号195」参照)が存在し,顔貌所見,肺動脈弁狭窄や肥大型心筋症の特異的心臓所見,低身長,胸郭所見,家族歴,発達遅滞等の組み合わせで判定する。このうち顔貌所見の判断は,評価時の年代とともにその特徴にも変化が生じうるため,担当医のみの判断ではなく,dysmorphology(異常形態学)に習熟した臨床遺伝専門医との連携が重要である。遺伝学的確定診断はPTPN11 ,SOS1 ,RAF1 ,RIT1 等のNS責任遺伝子群に病的バリアントが同定されることをもって判断する。
疾患固有の臨床経過(自然歴)に即した包括的医療管理と,このうち二大主要合併症である心疾患と低身長に対する実質的治療とに大別できる。前者においては,年代別の対応が重要であり,新生児期~乳児期(診断時)において必ずチェックする先天性合併症評価,幼児期~学童期は年齢依存的に発症しうる合併症への対応,学童期以降は精神心理状態への留意など,年代別に強調する医療管理のポイントがある。また,軽微な所見を持つ親由来であることも少なくないため,次子相談を含む遺伝カウンセリング(家系内への影響)は専門医との連携が重要である。その他発達支援(リハビリテーション),医療福祉(療育手帳,特別児童扶養手当,小児慢性特定疾病等)までを含めたコーディネートが求められる。後者の主要合併症の評価・治療においては,各々循環器・内分泌専門医との連携を行うのが基本である。
このような包括的医療管理の遂行には,その役割を担う担当医が必要であり,高次医療施設の遺伝診療部門や総合病院の小児科医があたることが多いと思われるが,NSの自然歴の把握と専門医との連携機能が求められる。
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