現在、日本高血圧学会ガイドラインは、心房細動(AF)例の血圧管理として「収縮期血圧(SBP)<130mmHg」を推奨している。根拠として挙げられているのは、世界25カ国のAF例で経口抗凝固薬間の有用性を比較した2ランダム化比較試験データの併合解析(7329例)である[SPORTIF Ⅲ/Ⅴ, 2003]。同解析ではSBP「>140.8mmHg」に比べ「122.7-131.3mmHg」群で、「脳卒中・塞栓症」リスクは有意に低かった。
では日本人のデータではどうなるだろう。わが国の前向きAFレジストリの併合データであるJ-RISK AF研究からの解析が、2022年12月9日、EHJ Open誌サイトに掲載された[Kodani E, et al]。SBP「≧136mmHg」でも「125-135mmHg」に比べ脳梗塞や大出血のリスクは増えず、逆に「<114mmHg」で死亡リスクが有意に高くなっていた。概要を紹介したい。
解析対象となったのは、観察開始時の血圧値が明らかだった非弁膜症性AF(NVAF)の1万5019例である。平均年齢は70.0歳、男性が69%を占めた。73%が抗凝固薬を服用し、降圧薬の服用率は63%だった。また心不全の合併率は25%だった。
これら1万5019例の2年間「脳梗塞」発生率は1.0/1000例・年、「大出血」は1.2/1000例・年、「心血管系(CV)死亡」は1.0/1000例・年、「総死亡」は2.7/1000例・年だった。
そこで観察開始時SBPの四分位群別に、上記イベントリスクを比較した。降圧薬の服用率は、SBP最低四分位群(<114mmHg)が60.1%、第2四分位群(114-124mmHg)は60.7%、第3四分位群(125-135mmHg)では65.9%、最高四分位群(≧136mmHg)も64.0%―である。
まず「脳梗塞」と「大出血」のリスクを比較すると、いずれも未補正ハザード比(HR)はSBP四分位群間に有意差を認めなかった。特にSBP「≧136mmHg」群でも「125-135mmHg」群に比べ、脳梗塞HRは1.18(95%信頼区間[CI]:0.85-1.63)、大出血も1.12(同:0.83-1.50)だった。CV死亡(1.17、0.81-1.69)、総死亡(1.18、0.94-1.47)も同様で、「≧136mmHg」群における有意なリスク上昇は認めなかった。
一方SBP「<114mmHg」群では、「CV死亡」と「総死亡」の未補正リスクが、「125-135mmHg」群に比べ有意に高くなっていた(順にHR:1.97[95%CI:1.40-2.78]、1.89[1.53-2.33])。
これらの結果は、CHA2DS2-VAScスコアやAFタイプ、抗血栓療法や降圧薬の有無などを補正後も同様だった。そのため原著者たちは、観察開始時SBP「<114mmHg」は死亡の独立した危険因子と考えているようだ。
次にSBP「150mmHg」の上下でも上記イベントリスクの比較を実施した。「≧150mmHg」では脳梗塞・塞栓症と脳出血リスクの著増が、伏見AFレジストリから報告されているためである[Ishii M, et al. 2017]。
すると、「脳梗塞」と「大出血」の2年間発生率は150mmHg「未満」群に比べ「以上」群で有意に高かった反面(脳梗塞:1.8 vs. 2.8%、P=0.007、大出血:2.0 vs. 3.0%、P=0.018)、「CV死亡」と「総死亡」の発生率には有意差はなかった(CV死亡:いずれも1.8%、総死亡:4.7 vs. 5.3%、P=0.362)。
また諸因子を補正すると、150mmHg「以上」群で有意にリスクが高くなっていたのは「大出血」だけだった(HR:1.64、95%CI:1.12-2.40)。
この結果は今後のわが国ガイドラインにどのように反映されるだろうか。
本研究は、日本医療研究開発機構から資金提供を受けた。