2022年11月5日から2日半にわたり、シカゴ(米国)にて米国心臓協会(AHA)学術集会が開催された。ライブとリモート参加のハイブリッド型だが、欧州心臓病学会(ESC)と異なり参加者数は公表されていない。ここでは注目の大規模臨床試験を中心にお伝えしたい。
2型糖尿病(DM)ではスタチン治療下でも、高トリグリセライド(TG)血症を呈する例が多い。そのためフィブラート追加によるTG低下を介したさらなる心血管系(CV)イベント抑制に期待がかかったが、大規模ランダム化比較試験(RCT)、FIELD試験1)、ACCORD試験2)はいずれも、フィブラート追加による有意なCVイベント抑制を証明できなかった。しかしその後、高TG血症だけでなく低HDL-C血症も合併している患者に限れば、フィブラートは高TG血症例の冠動脈イベントを抑制するとのメタ解析3)が報告された。
このような知見を背景として、高TG、低HDL-Cを呈する2型DM例を対象に、フィブラートのCVイベント抑制作用を検討するRCT“PROMINENT”が実施されたが、ネガティブな結果に終わった。Aruna D. Pradhan氏(ブリガム・アンド・ウィメンズ病院、米国)の報告から紹介する。
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PROMINENT試験の対象は、十分なスタチン治療下で「TG 200-499mg/dL」かつ「HDL-C≦40mg/dL」だったCV高リスク(CV既往/高齢1次予防)2型DM1万497例である。
年齢中央値は64歳、28%が女性だった。DM罹患歴は46%が「10年以上」、HbA1c中央値は7.3%である。TG中央値はおよそ270mg/dL、HDL-C中央値は33mg/dLだった。
背景治療を見ると、96%がスタチンを服用しており、LDL-C中央値は80mg/dL弱だった。
これら1万497例はフィブラート(ペマフィブラート0.2mg×2/日)群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で観察された。
その結果、TGは1年後、プラセボ群の「244mg/dL」に対しフィブラート群では「189mg/dL」まで低下し、この差は試験終了時までおおむね維持された。またHDL-Cも開始4カ月後には、プラセボ群に比べ2mg/dLの高値となっていた。
一方、フィブラート群では試験開始4カ月後、LDL-Cがプラセボ群に比べ11mg/dLの高値となっている(試験開始時からの上昇率はプラセボ群よりも有意に大)。
そして3.4年(中央値)観察後、1次評価項目である「CV死亡・心筋梗塞・緊急血行再建を要する不安定狭心症・脳卒中」のフィブラート群における対プラセボ群ハザード比(HR)は1.03(95%信頼区間[CI]:0.91-1.15)となり、有意差はなかった。両群の発生率曲線は、試験開始から終了まで一貫して、ほぼ重なっていた。
また1次評価項目を構成するイベントを個々に比較しても、有意差はなかった。
さらに事前設定された20近いサブグループ解析(スタチン強度別、開始時TGの高低など)でも、両群間に有意差はなかった。
「総死亡」リスクにも、有意差はなかった(HR:1.04、95%CI:0.91-1.20)。
一方、有害事象は、重篤なものに限れば両群間に有意差はなかったが、フィブラート群では「腎イベント」が有意に多かった(10.7 vs. 9.6/100例・年、HR:1.12、95%CI:1.04-1.20)。また静脈血栓塞栓症も低頻度ながら、フィブラート群におけるHRは2.05(95%CI:1.35-3.17)だった(0.43 vs. 0.21/100例・年)。なお深部静脈血栓症の微増はFIELD試験1)でも報告されている。
この結果についてPradhan氏は、フィブラート群におけるLDL-C上昇がTG低下などによる有用性を打ち消した可能性を指摘した。
一方、指定討論者のKarol E. Watson氏(UCLA、米国)は、スタチンが広く使われるようになった現在では、少なくとも現存するフィブラートにはCV転帰改善を期待できないと結論する。
というのも、フィブラート製剤がCV転帰を改善したRCTは1999年報告の“VA-HIT”4)(対象は低HDL-Cを呈する冠動脈疾患男性)が最後であり(同試験が実施された1990年代はまだ、著明な高コレステロール血症を除き、CV高リスクでもスタチンは頻用されなかった)、それ以降は前出のFIELD試験1)、ACCORD試験2)を含めすべてネガティブ試験だったためである。
本試験はKowa Research Instituteから資金提供を受けて実施された。また発表と同時に論文がN Engl J Med誌ウェブサイトで公開された5)。
SGLT2阻害薬は今や血糖降下薬の枠を超え、さまざまな疾患に対する転帰改善作用が注目されている。本学会では、それら有用性を検討したランダム化比較試験(RCT)のメタ解析である“SMART-C”研究が報告された。直前4日に論文が出されたEMPA-KIDNEY試験6)も含まれている。David Preiss氏(オックスフォード大学、英国)の報告を紹介するとともに、治療効率も検討したい。
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メタ解析の対象となったのは、SGLT2阻害薬の有用性をプラセボと比較し、かつ各群500名以上を6カ月以上観察したランダム化二重盲検試験である。
対象疾患別に「心血管系(CV)高リスク2型糖尿病(DM)」(4試験、4万2568例)と「心不全(HF)(±DM)」(5試験、2万1947例)、「慢性腎臓病(CKD)(±DM)」(4試験、2万5898例)の3グループに分けられた。
まず「CV死亡・HF入院」は、上記3グループすべてで、SGLT2阻害薬群における有意なリスク低下が観察された。「CV死亡」のみで検討しても同様だった。
ただし「DM非合併」例のみで検討すると、「HF例」ではSGLT2阻害薬群で「CV死亡・HF入院」リスクは有意に減少していた一方、「CKD例」ではサンプル数が5000例弱ということもあり、有意差には至らなかった。
本メタ解析の特徴は、「絶対リスク減少幅」も算出している点である。
例えば,SGLT2阻害薬による上記「CV死亡・HF入院」抑制作用を相対リスクで評価すると、①「CV高リスク2型DM例」ではプラセボ群に比べ20%の有意低値だった。一方、これを絶対リスクで評価すると減少幅は「5/1000例・年」であり、1年間の治療必要者数(NNT)を算出すると「200例」となる。
同様に「腎疾患進展」の絶対リスク減少幅は2/1000例・年(1年間NNT:500例)、「急性腎障害」も1/1000例・年(同1000例)だった。
一方②「HF例」における「CV死亡・HF入院」絶対リスク減少幅は、「DM合併」ならば34/1000例・年(同30例)、「DM非合併」でも22/1000例・年(同46例)だった。
また「腎疾患進展」の減少幅は「DM合併」で6/1000例・年(同167例)、「DM非合併」は2/1000例・年(同500例)、「急性腎障害」もそれぞれ5(同200例)と6/1000例・年(同167例)だった。
③「CKD例」では「腎疾患進展」に対する抑制が著明で、「DM合併」における減少幅は11/1000例・年(同91例)、「DM非合併」で15/1000例・年(同67例)だった。「急性腎障害」減少幅は、それぞれ4(同250例)と5/1000例・年(同200例)、「CV死亡・HF入院」は11(同91例)と2/1000例・年(同500例)である。ただしDM非合併CKD例は、先述の通りサンプル数が少ない点に留意する必要があるという。
なお指定討論者のNaveed Sattar氏(グラスゴー大学、英国)は、SGLT2阻害薬によるこのような有用性の機序として「血行動態ストレス(hemodynamic stress)減少」と、「細胞過栄養(cellular overnutrition)改善」の可能性を指摘していた。
本メタ解析はUK Medical Research CouncilとKidney Research UKの資金提供を受けた。製薬会社からの資金提供はない。
本研究は発表と同時に論文が公開された7)。
サイアザイド類似薬のクロルタリドン(CTD)は、サイアザイド系利尿薬のヒドロクロロチアジド(HCTZ)に比べ心血管系(CV)イベント抑制作用が強力である可能性が、メタ解析8)などから示唆されていた。そのためSHEP9)、ALLHAT10)などで示されたCTDのエビデンスをそのままHCTZに当てはめうるかという疑問が、特にCTDがもはや流通していない日本では呈されることも多かった。
しかしこのたび、ランダム化比較試験“DCP”(Diuretic Comparison Project)で直接比較が実施され、「CVイベント」と「がん以外による死亡」抑制作用については、両剤間に差がないことが明らかになった。Areef Ishani氏(ミネアポリスVA医療センター、米国)の報告11)を紹介する。
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DCP試験の対象は、高血圧と診断され、HCTZ 25mg/日または50mg/日服用下で医療機関測定収縮期血圧(SBP)「≧120mmHg」だった65歳以上の1万3523例である。
平均年齢は72歳、男性が97%、黒人が15%を占めた。HCTZの用量は、95%が「25mg/日」だった。SBP平均値は139mmHgである。
これら1万3523例はHCTZを継続する群(HCTZ群)と、CTDに切り替える群(CTD群)にランダム化され、非盲検下で2.4年間(中央値)観察された。CTDの用量はHCTZ 25mg服用例ならば12.5mg、50mgならば25mgへ変更された。
まず血圧だが、試験期間を通じ両群間に差はなかった。またカリウム(K)製剤の併用率は観察開始時の11%から、HCTZ群ではそのまま推移したが、CTD群では14%前後まで上昇した。
その結果、1次評価項目である「脳卒中・心筋梗塞・緊急血行再建を要する不安定狭心症・急性心不全入院、またはがん以外による死亡」のCTD群ハザード比(HR)は1.04(95%信頼区間[CI]:0.94-1.16)でHCTZ群と有意差を認めなかった。
また上記CVイベントを個別に比較しても、同様の結果だった。
事前設定サブグループ解析もほぼ同様で、年齢の高低、性別、人種別の解析、あるいはeGFR「60mL/分/1.73m2」の上下、糖尿病合併の有無、開始時SBP「136mmHg」(中央値)の上下で分けても、有意な交互作用はなく、一貫して両群間の1次評価項目リスクに差はなかった。
唯一の例外が「心筋梗塞・脳卒中」既往の有無である。これら既往がなかった例(全体の89%)では、CTD群における上記1次評価項目HRは1.12(95%CI:1.00-1.26)、既往例では0.73(同:0.57-0.94)となり、交互作用P値は0.035だった。ただしIshani氏はこの知見を「偶然」(Chance)と見ているようである。
有害事象は、低K血症がCTD群で有意に多く見られた(6.0 vs. 4.4%、P<0.001)。
この結果に対し、指定討論者のDaniel Levy氏(国立心肺血液研究所、米国)は以下の2点を指摘した。
1つ目は「HCTZに有利な試験デザイン」だった可能性である。すなわち試験参加例は全例、HCTZ服用中の高血圧例だった。そのため同薬への反応が良く、なおかつ有害事象の少ない患者が選ばれていた可能性がある。
もう1点は、「女性」や「65歳以下」に本結果が当てはまるかどうかという疑問だった。
本試験はVA Office of Research and Developmentをスポンサーとして実施された。また研究者主導で安価にランダム化試験を実施すべく、電子診療記録(Electronic Medical Records)を活用し、参加施設に治験スタッフがいないなど、臨床試験の形としても画期的な試みだった。
ループ利尿薬トラセミドはフロセミドに比べ、直接的心保護作用で勝る可能性が指摘され、事実、観察研究(TORIC)では慢性心不全(HF)の死亡リスクをフロセミドに比べ有意に抑制していた12)。しかし新たにランダム化比較試験(RCT)を実施したところ、両剤のHF例死亡抑制作用に有意差は認められなかった。Robert J. Mentz氏(デューク大学、米国)が報告した“TRANSFORM-HF”試験13)を紹介する。
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本試験の対象は、HFで入院し長期利尿薬治療が必要と考えられた米国の2859例である。左室駆出率(EF)に制限はないが、「≧40%」例では「NT-proBNP上昇」も必要とされた。
平均年齢は65歳、37%が女性、34%が黒人だった。「HF対象のRCTとしては(ほかの試験に比べ)かなり多様な対象が含まれている」とMentz氏は述べた。
約3割が新規HF診断例で、「EF≦40%」がほぼ3分の2を占めた。虚血性HFはおよそ3割だった。
入院前ループ利尿薬の内訳は、78%がフロセミドでトラセミドは15%のみだった。また入院前用量は両群とも、フロセミド(換算)66mg/日、退院時は80mg/日で群間差はなかった。
これら2859例は退院時にトラセミド群とフロセミド群にランダム化され、非盲検下で観察された(PROBE試験)。いずれの薬剤も用量は担当医の判断で決められた。
その結果、中央値17.4カ月の観察期間後、1次評価項目の「総死亡」はトラセミド群、フロセミド群とも17.0/100例・年で有意差はなかった。Mentz氏はこの発生率を「きわめて高い」と評した。
またこの結果は、年齢、性別、人種、EFや推算糸球体濾過率の高低にかかわらず一貫していた。
2次評価項目の「総死亡・全入院」も同様で、トラセミド群では99.2/100例・年と、フロセミド群(107.6/100例・年)に比べ低値とはなったものの、ハザード比は0.92(95%信頼区間[CI]:0.83-1.02)で有意差には至らなかった。
さて以上はIntention-to-Treat(ITT)解析である。しかし実際には試験開始30日後の時点で、6.7%が割り付け治療をクロスオーバーし、7.0%はループ利尿薬を中止していた。そこでOn-Treatment解析を実施したが、やはり「総死亡」、「総死亡・全入院」ともITT解析と同様の結果となった。
この結果に対し指定討論者のBiykem Bozkurt氏(ベイラー大学、米国)は以下を指摘した。
まず、HF例の病態進展抑制を比較する試験として「総死亡」という1次評価項目が適切だったかという疑問である。「心血管系(CV)死亡・HF入院」などのほうが適切だった可能性もある。
また、HF標準治療が進歩する中、本試験の「総死亡リスク20%減少」という仮説は楽観的にすぎたのではないかとの疑念も呈された。
さらに試験前に8割がフロセミドを使用していたため、そのキャリオーバー作用の有無も懸念されるという。
ただしTRANSFORM-HFは研究者主導の低コスト試験のため、「実用的デザイン」が採用されたという事情がある。すなわち試験参加者の医療機関におけるフォローアップはなく、割り付け後はデューク臨床研究所による電話フォローアップのみ。結果として評価項目は、電話インタビューで得られた「死亡」と「入院」のみとなった(公的記録や入院記録と照合・確認)14)。そのため、CV転帰や腎転帰は不明である。
その一方、治療群の割り付け以外、試験実施者は一切介入していないため、得られた結果は実臨床への適合性が高い。この点はMentz氏も強調していた。
また同氏によれば、本試験の着想を得たのは8年前だという。その時期であれば「総死亡リスク20%減少」を仮定しても不自然ではなかったのかもしれない。
本試験は、米国国立心肺血液研究所の資金援助を受けて実施された。
同じ心房細動(AF)でも、「発作性」に比べ「持続性」や「永続性」では、「脳卒中」や「死亡」のリスクが有意に高くなる(ENGAGE-AF)15)。そのため「発作性」AFから「持続性」への進展を抑制できれば、それらイベントも減少する可能性がある。では進展抑制にはアブレーションと薬剤治療のいずれが有用か―。
この問いに答えるべく“PROGRESSIVE-AF”試験が実施され、アブレーションの優位性が確認された。Jason G. Andrade氏(モントリオール心臓研究所、カナダ)の報告を中心に紹介したい。
なお本試験はランダム化比較試験“EARLY-AF”16)の副次的解析である。
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本研究の対象は、アブレーションの適応があり診断から2年以内の「非永続性」AFである。Ⅰ、Ⅲ群抗不整脈薬を治療域用量で常用していた例は除外されている。
303例が登録され、平均年齢は58歳、男性が3分の2を占めた。合併症は少なく「AF進展リスクの低い」集団だとAndrade氏は評した。AF診断からの中央値は1年、発作性AFがおよそ95%を占め、39%に電気的除細動の既往があった。また29%にⅠ、Ⅲ群抗不整脈薬使用歴があった。
これら303例はループ心電計を植え込みの上、クライオアブレーション群と抗不整脈薬群にランダム化され、非盲検で3年間観察された。
抗不整脈薬の選択は試験参加施設に任され、3カ月を目安に最大用量を目指した。最も頻用されたのはフレカイニドで、試験開始時の65.8%、終了時の49.0%が使用していた。用量中央値はいずれも200mg/日である。
また30.9%は観察期間中に、抗不整脈薬の服用を中止していた(大半はアブレーションにクロスオーバー。1次評価項目達成例は皆無)。
その結果、3年間の1次評価項目「持続性AF発現」(植え込み式ループ心電計評価)は、アブレーション群1.9%、抗不整脈薬群7.4%となり、アブレーション群におけるハザード比(HR)は0.25(95%信頼区間[CI]:0.09-0.70)と有意に低かった。
またQOLは、AFEQT(AF特化QOL)評価、EQ-5D(健康関連QOL)評価のいずれもアブレーション群において、臨床的に意味のある幅の有意改善が、試験開始1年後以降一貫して認められた。
なお、心房頻脈性不整脈も、アブレーション群で有意に抑制されていた(HR:0.49、95%CI:0.37-0.65、9.3 vs. 42.7%)。
またアブレーション群では「有害事象」も有意に少なく(11.0 vs. 23.5%、HR:0.47、95%CI:0.28-0.79)、重篤な有害事象に限っても同傾向だった(4.5 vs. 10.1%、0.45、0.19-1.05)。
この結果に対し、指定討論者のCarina Blomström Lundqvist氏(ウプサラ大学、スウェーデン)は、本試験における「AF進展」が「AF持続時間」のみを基準としている点に着目(原則7日以上持続で「持続性」AF)。持続時間のみの判断では発作性AF進展の多くを見逃している可能性を指摘し、「AF負荷(burden)」(測定時間中に占めるAF発現時間の割合)17)を用いた「進展」評価の必要性を主張した。たとえば発症後早期の発作性AF 323例を観察したAF-RISK研究18)では、「AF進展」のうち持続時間で把握できたのは3割のみであり、「AF負荷10%以上増加」という基準で検出された進展が7割を占めた。
本試験はCardiac Arrhythmia Network of CanadaとMedtronic、Baylis Medicalから資金提供を受けた。
また論文は報告と同時に、“EARLY-AF”の名でN Engl J Med誌サイトにて公開された19)。
大迫研究によれば、高血圧例の32.5%は、収縮期血圧のみが高血圧に相当する孤立性収縮期高血圧(ISH)、13.7%が孤立性拡張期高血圧(IDH)だった20)。一般的にIDHに伴う心血管系(CV)リスク上昇はISHに比べ小さいと考えられているが、脳卒中リスク著増を報告する中国からの長期観察研究もある21)。ではISH、IDHの治療において他剤よりもCVイベント抑制作用の強い降圧薬は存在するのだろうか―。そのような問いに答えるべく行われた解析をStephen Y. Wang氏(イエール大学、米国)の報告から紹介する。
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同氏が解析対象にしたのは降圧大規模試験“ALLHAT”である10)。診察室血圧「160-179/100-109mmHg」でCVリスク因子を有する、CV 1次予防3万3357例がランダム化され平均4.9年間、二重盲検法で観察された。なおα遮断薬服用群(9067例)は中央値3.3年観察時点で、利尿薬(クロルタリドン)に比べ、脳卒中と心不全リスクの有意著増が確認されたため(相対リスクはそれぞれ1.19と2.04)、早期中止となっている。
今回はその中から、「ISH」1万2845例と「IDH」1259例を抽出し、利尿薬群とCa拮抗薬(アムロジピン)群、ACE阻害薬(リシノプリル)群間の「総死亡・冠動脈イベント・脳卒中」リスクを比較した。
ISH例の平均年齢は69歳、50%が女性だった。IDH例では63歳、40%である。CVリスク因子は、IDHのACE阻害薬群でCa拮抗薬群に比べ高コレステロール血症例の割合が高かった点を除き、ISH、IDHとも3つの薬剤群間に有意差はなかった。
その結果、ISH、IDHいずれにおいても、「総死亡・冠動脈イベント・脳卒中」リスクは利尿薬とCa拮抗薬、ACE阻害薬群間に有意差を認めなかった。
一方、心不全リスクには薬剤間の差を認めた。すなわちISH例では、Ca拮抗薬服用で利尿薬服用に比べ、心不全発症の補正後ハザード比(HR)は1.39(CI:1.20-1.61)の有意高値だった(P<0.001)。一方、ACE阻害薬群における補正後HRは1.13(0.97-1.32)である。
IDH例においても、Ca拮抗薬群の対利尿薬群・心不全発症HRは2.17(1.07-4.41)、ACE阻害薬も2.25(1.06-4.77)だったが、α過誤回避のために設定された有意水準「P<0.0178」に達していなかった。
なおALLHAT全体の解析では、Ca拮抗薬、ACE阻害薬とも、利尿薬に比べ心不全リスクの有意上昇が認められている(相対リスクはそれぞれ1.38と1.19)。
本試験の「心不全」診断には、「降圧治療による心不全発症抑制」エビデンスであるSHEP試験22)と同一基準が用いられており、下肢浮腫を認めるのみでは心不全と診断されない23)。
本研究の限界としてWang氏は、①およそ4割が追加降圧薬(β遮断薬、クロニジン、レセルピン)を服用しており、それらの影響を除外できない、②「総死亡・冠動脈イベント・脳卒中」以外のイベントを評価するには検出力が足りない、の2点を挙げた。
本解析24)は、学会開催前の8月4日にAm Heart J誌ウェブサイトで公開されていた。
本解析に開示すべき利益相反はないとのことである。ALLHAT研究本体は米国国立心肺血液研究所から資金提供を受けて実施された。
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