2010年の統計において女性の平均寿命は86.3歳であった。高齢社会を迎え,患者の骨粗鬆症から目を背けることはできない。余命の延長に対し健康寿命は73.6歳とされ,この10年の差を短縮することが国家医療の問題となっている。10年間に起こるイベントの中でも,大腿骨近位部骨折の健康寿命に与える影響は大きい。
わが国では,大腿骨近位部骨折は発生数の上昇が推定され,その対策として,骨粗鬆症リエゾンサービスを用いて地域包括医療として患者を支える動きがある。女性の骨粗鬆症に限ると,わが国独自のYAM値では80%(1.0~1.5SD)付近から骨折数が増加し,60歳代では脊椎骨折の発生が多くなるとされている。60歳代の骨量減少領域患者に介入することによる脊椎骨折の予防は,その後の大腿骨近位部骨折も予防すると考えられる。
脊椎骨折が発生してしまった場合は,次の脊椎骨折を予防しなくてはいけない。この時期の介入も逃し,脊椎多発骨折を有する状態になると,脊柱変形による前方注視障害,立位バランス不良に伴う歩行障害に至る。そのために,立位バランス改善を目的に矢状面アライメントに修正を加える手術が増加している。この分野は,大きな進歩を見せる一方で手術侵襲が大きく,椎弓根スクリューを用いて矯正するため骨脆弱に対しテリパラチドが用いられることが多いが,第一に脊椎骨折に対する一次予防が重要である。
【参考】
▶ 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会, 編:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015年版. ライフサイエンス出版, 2015. [http://www.josteo.com/ja/guideline/doc/15_1.pdf]
【解説】
池田光正 近畿大学整形外科講師