発作性の心房細動(atrial fibrillation;AF)に比べ持続性AFでは死亡リスクが相対的に24%高い[Leung M, et al. 2018]。そのため発作性AFの進展を抑制できれば転帰改善の可能性もある―。そのような前提のもと、アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNi)とARBのAF進展抑制作用を比較した報告が2月23日、Sci Rep誌に掲載された。Youzheng Dong氏(南昌大学付属第二病院、中国)らによる論文を紹介したい。
今回解析対象となったのは、南昌大学付属第二病院への入院患者のうち発作性AFを認めた連続登録170例である。AFアブレーション施行歴のある例、ARBまたはARNiをすでに服用している例は除外されている。
これら170例中113例では入院中にARBの処方が開始されており、残り57例がARNiを開始されていた。背景因子を揃えるため傾向スコア(propensity score;PS)を用いたマッチングを実施し、各群47例ずつ(全94例)での比較となった。
これら94例の平均年齢は64歳、男性が約3割を占めた。AF罹患期間は20カ月強、30%が「Ⅰ群」抗不整脈薬、11%が「Ⅲ群」薬を服用していた。
また目標用量達成率はARNi群で22.7%、ARB群も27.3%のみだった。
その結果、観察期間中(ARNi群:709日、ARB群:743日[いずれも中央値])における持続性AFへの進展率は、ARNi群で10.6%、ARB群 36.2%となり、ARNi群におけるハザード比(HR)は0.32の有意低値だった(95%信頼区間[CI]:0.12-0.88)。
またARNi群におけるAF進展抑制は、PSマッチ前の170例で比較しても同様に認められた(HR:0.34、95%CI:0.14-0.81)。
なおAFの評価は、退院後の1~3カ月おき、それ以降は6カ月おきの24時間ホルター心電計、加えて少なくとも年1回の7日間連続ホルター心電計装着で実施した。
このAF進展抑制の差をもたらす機序につきDong氏らは、詳細な考察を示していない。しかし、ARNiはARBに比べAFアブレーション後の再発を有意に抑制するとするランダム化比較試験[Wang Q, et al. 2022]、AFアブレーション後にARNi服用例でのみ左房径・右房径の縮小を認めた(ARBでは変化なし)とするランダム化比較試験[Yang L, et al. 2022]の存在を指摘している。
なお今回の検討では、ARB群の左房径は0.38mm増加、ARNi群では逆に1.00mmの減少を認めたが、群間差は有意ではなかった。一方、左室駆出率の増加率はARB群の0.72%に対し、ARNi群では4.50%の有意高値だった。
プロスペクティブな比較試験が待たれる。
本研究は江西省からのグラントを受けた。また申告すべき利益相反はないという。