新規降圧薬として開発の進むアルドステロン合成阻害薬"Baxdrostat"(バキスドロスタット)だが、その有効性に「?」がともった。
治療抵抗性高血圧例に対する著明な降圧作用こそ、本年1月にランダム化比較試験"BrigHTN"で報告されたばかりだが、管理不良高血圧を対象とした第Ⅱ相ランダム化試験"HALO"では、プラセボと降圧作用の差を認めなかったためだ。3月4日から米国ニューオーリンズで開催された米国心臓病学会(ACC)学術集会における、Deepak L. Bhatt氏(マウント・サイナイ・アイカーン医科大学、米国)の報告を紹介する。
HALO試験の対象は、ACE阻害薬またはARB(±チアジド系利尿薬/Ca拮抗薬)服用下で収縮期血圧(SBP)「≧140mmHg」だった249例である。
平均年齢はおよそ60歳、男女はほぼ半数ずつだった。人種としては白人が7割強を占めた。
ランダム化時のSBP平均値は145mmHg強、推算糸球体濾過率(eGFR)平均値は90mL/分/1.73m2弱だった。
これら249例はバキスドロスタット0.5mg/日、1mg/日、2mg/日を追加する群またはプラセボ追加群の4群にランダム化され、二重盲検法で観察された。この3用量は前出BrigHTN試験と同じである。
なおランダム化の前にはアドヒアランス確認のため、単盲検導入期間が2~4週間設けられた。
8週間後、1次評価項目である「試験開始時からのSBP低下幅」はバキスドロスタット0.5mg/日群で17.0mmHg、1mg/日群は16.0mmHg、2mg/日群ならば19.8mmHgだったが、プラセボ群も16.6mmHg低下していたため、プラセボ群との比較では有意差とならなかった。
拡張期血圧での比較も同様だった(プラセボ群で5.9mmHg降圧)。
一方、アルドステロンの血中濃度はバキスドロスタット3群とも、プラセボ群に比べ著明かつ有意に低かった。プラセボに比べレニン活性が有意高値を示したのはバキスドロスタット1mg/日群のみだった。
安全性は4群間で同等だった。
なぜプラセボと降圧作用に差がつかなかったのか。Bhatt氏はアドヒアランス不良の可能性を挙げた。
試験開始8週間後のバキスドロスタット2mg/日群における薬剤血中濃度を調べたところ、36%の患者で予測される値の1%未満だったという。そしてそれら36%を除外した後付解析では、同群における8週間SBP低下幅は24.3mmHgとなり、プラセボ群に比べ有意に大きな降圧作用が認められた(P<0.01)。
指定討論者からはプラセボ群におけるSBP著明低下に着目し、本研究で採用された「血圧測定法」の適切さに対する疑義が示された。プラセボ群における大きな降圧幅をいぶかる声は、他の討論者からも聞かれた。
Bhatt氏は、上記のようなアドヒアランス不良が存在していたにもかかわらず、担当施設からは「ピルカウント」を根拠に良好なアドヒアランスが報告されていたと指摘し、試験参加の一部施設に問題があった可能性を匂わせた。
なおClinicalTrials.govの記録によれば、本試験に参加した63施設はすべて米国内の施設である。
本試験はCinCor Pharmaがスポンサーとなって実施された。