No.5159 (2023年03月11日発行) P.18
高山 真 (東北大学大学院医学系研究科漢方・統合医療学共同研究講座/東北大学病院総合地域医療教育支援部(総合診療科・漢方内科)特命教授)
有田龍太郎 (東北大学大学院医学系研究科漢方・統合医療学共同研究講座/東北大学病院総合地域医療教育支援部(総合診療科・漢方内科))
小野理恵 (東北大学大学院医学系研究科漢方・統合医療学共同研究講座/東北大学病院総合地域医療教育支援部(総合診療科・漢方内科))
登録日: 2023-03-10
最終更新日: 2023-03-10
1 新型コロナウイルス感染症の現状
新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)は,2022年10月に感染者が世界で6億人,日本で2000万人を超え,100年前のスペイン風邪の感染者数を超えた。その後も,複数の変異株の影響もあり,国内において複数回のワクチン接種が進んでいるが,患者数の増加は止まらずにいる。
2 中和抗体薬と抗ウイルス薬
COVID-19急性期の治療においては,主に重症化リスクの高い軽症~中等症Ⅰ患者に中和抗体薬が使用されるが,オミクロン株への効果が低下しているとの指摘もある。また,抗ウイルス薬も複数使用されるに至っているが,多くは重症化リスクの高い患者が適応となり,モルヌピラビルには胎児の体重減少,流産,奇形などの影響があり,ニルマトレルビル/リトナビルは薬剤との相互作用の面から併用薬の使用には十分な確認が必要となっている。
3 緊急承認されたエンシトレルビル
2022年11月22日に緊急承認された,エンシトレルビルは高熱・強い咳症状・強い咽頭痛などの臨床症状がある重症化リスク因子のない軽症者を中心に用いられ,症状発現から72時間以内に初回投与となっている。一方,非臨床試験において胎児に奇形を示唆する所見が認められており,併用禁忌の薬剤が多い。
4 漢方薬での急性期の多施設共同研究
漢方薬に視点を置くと,日本東洋医学会が主導して行われたCOVID-19急性期の多施設共同観察研究の結果が公開され,軽症・中等症Ⅰ患者では漢方薬を含む対症療法により,呼吸不全に至る割合が抑制されることが示された。また,多施設共同ランダム化比較試験の結果も公開され,軽症・中等症Ⅰ患者では一般的な対症療法に葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を追加することで,発熱期間が短縮されること,ワクチン未接種で中等症Ⅰ患者が呼吸不全に至る割合が抑制されること,などが示された。その他にも,急性期症状に対する治療の症例報告や症例集積報告も増えている。
5 漢方薬での軽症・中等症の単施設後ろ向き観察研究
軽症・中等症のCOVID-19患者を対象とした単施設後ろ向き観察研究では,早期の漢方薬投与により嗅覚障害の改善が促進されたことが報告された。このように複数の臨床研究の結果から,多様なCOVID-19急性期の症状緩和に加え,重症化抑制に貢献できる可能性も判明している。また,いくつかの漢方薬は抗ウイルス作用,抗炎症作用,臓器保護作用など様々な効果を有する。葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の文献調査では,体温調整作用,抗ウイルス作用,免疫調整作用,抗炎症作用,抗酸化作用があることが報告され,さらに近年,この2つの処方を構成する生薬のうち,甘草,麻黄,黄芩,芍薬,桔梗やその含有成分に抗SARS-CoV-2作用があることも報告された。
6 漢方薬の急性期治療への応用を期待
気道感染症などに用いられる漢方薬の多くは,既に保険適用されており,医療経済的にも安価であることなどから,適正な応用によりCOVID-19急性期治療に貢献できるものと考える。