心房細動(AF)が認知症のリスク因子と目されて久しい。平行して、経口抗凝固療法(OAC)による認知症抑制作用を示唆する観察研究も報告されている[Bunch TJ. 2020]。しかし最新の研究によれば、AFと認知症リスク、OAC服用間の関係は年齢により異なるようだ。若年者ではAF例の認知症リスクが高いにもかかわらず、OACによる認知症抑制が期待できない可能性がある。
まず「AFに伴う認知症発症リスクは若年者のほうが高い」。これはNisha Bansal氏(Washington大学、米国)らが3月8日、JAHA誌で報告した。
同氏らが解析対象としたのは、米国民間保険会社データベースに登録された、2010年以降にAFと診断された9万8484例と、同数の非AF対照群である。対照群は年齢・性別、データベース登録日、登録時の推算糸球体濾過率でマッチされている(腎機能が認知症発症に及ぼす影響を除外するため)。
平均年齢は73.6歳、女性が44.8%を占めた。AF群のOAC服用率は12.5%のみだった。
これらを3.3年(中央値)追跡した結果、認知症発生率はAF群で2.79/100例・年、非AF群で2.04/100例・年。「死亡」を競合リスクとした諸因子補正後の部分分布ハザード比(sHR)はAF群で1.16(95%信頼区間[CI]:1.13-1.20)、4年以上観察例に限るとsHR:1.22(95%CI:1.15-1.30)となった。
注目されるのは、年齢の高低で認知症リスクに有意差があった点である。若年者のほうがリスクが高い。65歳未満では認知症発症sHRが1.65(95%CI:1.29-2.12)だったのに対し、65歳以上ではsHR:1.07(95%CI:1.03-1.10)だった(交互作用P<0.001)。
一方Alvi A. Rahman氏(McGill大学、カナダ)らは、「OAC服用に伴う認知症リスク軽減は高齢者のほうが強いようだ」という観察研究を、2022年12月29日のNeurology誌で報告している。
こちらの対象は、英国プライマリケア医データベース(UK Clinical Practice Research Datalink)に登録された非弁膜症性AF 14万2227例。12.1/1000例・年が認知症を発症した。
OAC服用と認知症発症の関係を検討すると、75歳以上ではOAC「服用」に伴い認知症発症の多変量解析HRは0.84(95%CI:0.80-0.89)と「非服用」に比べ有意低値だった。一方、75歳未満ではHR:0.99(95%CI:0.90-1.10)となり「非服用」と有意差を認めない。
なお同様の結果は、60歳の上下で比較したスウェーデンの観察研究からも報告されている[Friberg L, et al. 2019]。
「認知症抑制」という観点からAFを考えるとすれば、示唆に富むデータかと思われる。
Bansal氏らの研究は、米国心肺血液研究所から資金提供を受けた。