2021年の欧州心臓病学会(ESC)で報告され、NEJM誌に掲載されたランダム化試験"SSaSS"では、通常塩使用に比べ一部をカリウム(K)に置き換える代替塩使用により、血圧は低下し心血管系(CV)転帰も改善することが明らかになった。
しかし同試験の対象は「脳卒中既往例」または「60歳以上の血圧管理不良」例であり、よりCV低リスク例における代替塩の有用性は明らかでない。さらに代替塩を用いず通常のナトリウム(Na)制限(減塩)を試みた場合の、有用性も不明である。
そのような観点から興味深い報告が4月13日、Nature Medicine誌に掲載された。高齢者を対象に高血圧の有無を問わず、「代替塩」「減塩」の有用性を検討したランダム化比較試験"DECIDE-Salt"である。同じ「Na摂取制限」を目指しながらも「代替塩」は有用、「減塩」は無効という結果となった。著者はYifang Yuan氏ら(北京大学、中国)である。
DECIDE-Salt試験の対象は、55歳以上の高齢者施設居住者である。血圧の高低は問わない(高K血症例は除外)。48施設に居住する1612名が試験に組み込まれた。
平均年齢は71.0歳。血圧平均値は137.5/80.5mmHgで、62.1%に高血圧診断歴があった。なお脳卒中・冠動脈疾患既往例は29.1%のみである。
これら1612例は施設別にランダム化され、「2×2」デザインで「通常群 vs. 代替塩群」と「減塩群 vs. 非減塩群」の4群に割り付けられ2年間観察された。
「代替塩」群ではNa代替塩(25%をカリウム、12.5%を添加物で置換)が支給された。また「減塩」群では調理時食塩添加を、4割削減を目標に漸減した(実際には実現できず。非減塩群との食塩摂取量の差は1.7g/日のみ)。
最終的な比較は2種類、すなわち「代替塩(±減塩)」群 vs.「通常塩(±減塩)」群 と、「減塩(代替塩/通常塩)」群 vs. 「非減塩(代替塩/通常塩)」群—である。
その結果、「代替塩」群では「通常塩」群に比べ血圧(1次評価項目)は7.1/1.9mmHgの有意低値だった。なお収縮期血圧低下作用は、試験前の高低に有意な影響を受けていなかった。
一方、「減塩」群の血圧は「非減塩」群と差を認めなかった。
この背景を探るべく観察期間中の血中Na濃度を調べると「代替塩」群では「通常塩」群に比べ有意に低値、逆にK濃度は有意高値となっていた。
他方、「減塩」群と「非減塩」群の間に、Na、K濃度の差はなかった。
ただし24時間尿中Na排泄量は、試験終了まで観察可能だった639例のみの検討だが、「代替塩」群と「通常塩」群間に有意差はなかった(K排泄量は「代替塩」群で有意に多)。
次に2次評価項目の「脳卒中・心筋梗塞・心不全・CV死亡」だが、「代替塩」群では「通常塩」群に比べ有意かつ著明な減少が見られた(ハザード比[HR]:0.60、95%信頼区間[CI]:0.38−0.96)。
一方、「減塩」群における対「非減塩」群のHRは1.04(95%CI:0.64−1.69)だった。
なお「総死亡」はいずれの比較でも有意差こそなかったものの、「減塩」群では「非減塩」群に比べ増加傾向を認めた(HR:1.19、95%CI:0.89−1.60)。
本試験は中国科学技術部から資金提供を受けた。