2型糖尿病(DM)の合併症としては、大/細小血管症に加え心不全も看過できない。2型DM群における有病率は非DM対照群の2倍以上(この比率は虚血性心疾患に等しい)であることが、スウェーデンにおける大規模観察研究から明らかになっている。心不全は不可逆性の疾患のため、各国ガイドラインはその予防の重要性を強調している。
しかしながら2型DM例における心不全予防は、大血管症予防に比べると芳しくない。スウェーデンにおける大規模観察研究によれば、鈍いながらも減り続けていた発症率が2013年以降は減少が止まり、横ばいを続けているという。BHFグラスゴー心臓血管研究センターのNaveed Sattar氏らによるCirculation誌5月8日掲載の論文を紹介したい。
同氏らが解析対象としたのは、スウェーデン全国レジストリに登録された、心血管系(cardiovascular:CV)疾患診断歴(=既往)のない2型DM 67万9072例(平均64.6歳)と、年齢・性別・居住地域をマッチさせた、やはりCV疾患既往のない非DM 264万3800例(同62.7歳)である。これら2群において、「虚血性心疾患(ischemic heart disease:IHD)」と「脳血管障害」、さらに「心不全」の新規発症率の推移を調べた。
その結果、IHDと脳血管障害は、2型DMの有無を問わず発生率は経時的に堅調な減少を認めた。すなわち2型DM群におけるIHD新規発症率は、2001~02年には205/1万例・年だったのに対し、10年後である「11~12年」にはその51%、さらに「17~19年」では39%にまで低下していた(それでも非DM群の「17~19年」における37/1万例・年に比べると倍以上ではあるが)。
同様に脳血管障害の新規発症率も、2型DM群は「01~02年」の83/1万例・年から「11~12年」には66%、「17~19年」は55%まで下がった(しかし非DM群に比べると「17~19年」の発生率は1.7倍)。
一方これらと異なる様相を示したのが、心不全新規発症である。非DM群ではIHDや脳血管障害と同様に堅調な減少を認めた一方、2型DM群では、98/1万例・年だった「01~02年」の発生率が「17~19年」になっても84%までしか減らず、さらに13年以降はほぼ77%で横ばいのまま推移した。
Sattar氏らは2型DM群における心不全発症抑制の下げ止まりをもたらした要因として、肥満への介入が不十分だった可能性を挙げている。なお、近年臨床応用が広がったGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬による影響は、今後反映されてくると考えているようだ。
米国の心臓協会(AHA)・心臓病学会(ACC)・心不全学会(HFSA)が連名で2022年に出した心不全管理ガイドラインは、心不全入院抑制のために2型DMにはCV疾患合併例だけでなく、CV1次予防例でも高リスクであれば、SGLT2阻害薬を「推奨度最高」で推している。米国糖尿病学会(ADA)作成による「2023年版糖尿病標準治療」における推奨も同旨である。
本解析は、スウェーデン公的機関から資金提供を受けた。