わが国の心房細動(atrial fibrillation:AF)例は直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)を服用していても、年間2.5%弱が脳梗塞・全身性塞栓症を発症する[伏見AFレジストリ]。ではDOAC服用例が脳梗塞を来した場合、その後の抗血栓療法はどうすれば良いだろう? わが国の「2020年改訂版・不整脈薬物治療ガイドライン」(日本循環器学会/日本不整脈心電学会)には明確な指針がない。
しかし参考となる報告が、5月24日付でNeurology誌HPに掲載された。香港中文大学のYiu Ming Bonaventure Ip氏らによる観察研究である。紹介したい。
同氏らが解析対象としたのは、適正用量DOAC服用下で脳梗塞を発症した非弁膜症性AF 2337例である。香港の公立病院に搬入された全例が登録された。
うち1652例(70.7%)は発症前から服用していたDOACを脳梗塞後も同用量で継続、477例(20.4%)が他DOACに変更、122例(5.2%)はワルファリンへ切り替えていた。そこでIp氏らはこれら3群におけるその後の脳梗塞発生率を比較した。
なお86例はダビガトランを増量して継続したが、少数群ゆえ解析対象からは外されている。
その結果、16.5カ月間(中央値)における脳梗塞再発の諸因子補正後ハザード比(HR)は、「同一DOAC継続」群(年間発生率:8.7%)に比べ「他DOACへ変更」群(12.8%)で1.62(95%信頼区間[CI]:1.25-2.11)、「ワルファリンへ切り替え」群(12.6%)で1.96(1.29-3.02)と、いずれも有意に高値となっていた。
Ip氏らは「ワルファリンへ切り替え」群におけるリスク上昇はINR管理不良に一因がある可能性を指摘する一方、「他DOACへ変更」群における脳梗塞再発リスク上昇の理由は不明だと記している。
なお「他DOACへ変更」群では「同一DOAC継続」群に比べ、急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)発症の補正後HRも、2.18(1.29-3.67)の有意高値となっていた(0.8 vs. 2.4%)。そのため同氏らは、何らかの理由により「他DOACへ変更」群で血栓塞栓症高リスク例が多くなった「セレクション・バイアス」の可能性もあるとしている。
一方頭蓋内出血リスクは、3群間に有意差を認めなかった(順に1.5、1.6、5.3%/年)。死亡リスクも同様に有意な群間差はなかった。
なお抗凝固療法の種類・有無を問わず、249例が脳梗塞後に抗血小板薬を開始したが、抗血小板薬開始は「脳梗塞再発」「頭蓋内出血」そして「ACS」リスクのいずれにも有意な影響を与えていなかった。
本研究には申告すべき資金提供源はないとのことである。