「科学技術はこんなに進んでいるのに、なぜ月経をなくすことができないのか?」
人と技術の関係をテーマとする作品を発表してきた著名な女性の現代アーティスト1)が、数年前、とある講演会で発したこのような問いに、私は正直にいえば若干の気持ち悪さを感じました。そしてなぜ自分がこの問いを気持ち悪く感じるのか、不思議にも思いました。
若い頃は月経痛で何度も救急搬送された経験があり、子どもに同じ思いをしてほしいとは思わない。にもかかわらず、「月経をなくす」という提案には躊躇を感じてしまう。この感覚は一体どこから来るのでしょう。人は何にせよ現状維持を選ぶ傾向にあるという、いわゆる「現状維持バイアス」のためでしょうか。あるいは「月経」という人間の自然を改変することへの恐れでしょうか。
とはいえいずれにしても、「月経軽減法(menstrual suppression)」は、すでに医学的な選択肢の1つに含まれているのですね。米国では、思春期の子ども向けの外来で紹介されていることを知り、驚きました2)。生理の重い人、痛みの強い人、子宮内膜症の場合に医師から利用を提案するだけでなく、身体障害があって自己処理が難しい場合、あるいは単に毎月の生理が嫌だ、と言う場合にも利用可能とされています。トランスジェンダーの子どもの場合も想定されているでしょう。
日本では、受験で本領を発揮できないのを防ぐために、予定日を薬でずらす提案がなされている例3)は見かけますが、月経をなくす選択肢を十代の子どもに提示している例は見たことがありません。でも、受験日でなくても毎月の月経は煩わしいものですし、トランスジェンダーの子どもたちにとっては忌まわしいものですらありえます。十代の子どもたちにも「月経軽減法」の選択肢は提示してもよいか? あるいは提示するべきか?
十代の子どもを持つ親として、すぐ肯定するのは感情的には難しいのですが、一方で、月経のために活動を制限され困っていたり、心理的に負担を感じたりしている子がいるのなら、やはり選択肢としてあったほうがよいのかもしれません。副作用について十分に理解した上であることは言うまでもありませんが。皆様はどう思われるでしょうか。
【文献】
1)MOMAに収蔵されている「生理マシーン、タカシの場合」の作者、スプツニ子! さん(東京藝術大学准教授)です。
2)Children’s Hospital Colorado:menstrual suppression.
https://www.childrenscolorado.org/doctors-and-departments/departments/pediatric-gynecology/pediatric-gyn-services/menstrual-suppression/
3)朝日新聞EduA記事.(2020年10月13日)
https://www.asahi.com/edua/article/13802974
渡部麻衣子(自治医科大学医学部総合教育部門倫理学教室講師)[選択肢の提示]