わが国の心不全ガイドラインでは、症候性となった心不全(ステージC)に対しては、初回診断時から積極的な薬剤治療を推奨している。しかしそのような患者の一定部分は見逃され、適切な治療開始タイミングを逃した結果、転帰も増悪している可能性がある。
6月21日JACC Heart Failure誌掲載のEVOLUTION HF研究がそれを明らかにした。同研究はわが国を含む4カ国の大規模実臨床データ研究で、著者は米国・ベイラー医科大学のBiykem Bozkurt氏たち。簡単に紹介したい。
今回紹介するコホートは、日本、スウェーデン、米、英4カ国で、入院時に初めて心不全と診断された26万3525例である。1型糖尿病は除外されている。日本からは最多の8万7787例が登録された。
年齢中央値は68~81歳、女性の占める割合は44~50%だった。
併存疾患を見ると、最も多かったのが日米では「虚血性心疾患」(日本:46%、米国:60%)、残り2国は「心房細動」だった(スウェーデン:47%、英:46%)。そして日本では「心房細動」(27%)、米国は「慢性腎臓病 [CKD]」(47%)が虚血性心疾患に続いた。英国は「CKD」と「虚血性心疾患」(いずれも40%)、スウェーデンも「虚血性心疾患」(40%)が心房細動に次いで多い併存症だった。
これらを対象に、退院後1年間の転帰が検討された(ただし退院後死亡データは英国、スウェーデンのみ提供)。
その結果、最多イベントは「再入院」で発生率は96.8/100人年だった。
この再入院の中でも多かったのが「心不全再入院」で、発生率は「13.6/100人年」。次いで「CKD入院」の「4.5/100人年」だった。
アテローム動脈硬化性疾患による再入院はそれよりも少なく、脳卒中:3.0/100人年、心筋梗塞:2.0/100人年、末梢動脈疾患:0.9/100人年――という結果だった。
また「死亡」率は年間28.4/100人年(12.9は院内死亡)。院内外を通しての「心血管系(CV)死亡」は16.2/100人年だった。
上記傾向は4カ国を通して、ほぼ一貫していた。
死亡率、再入院率とも非常に高い結果となったが、その原因としてBozkurt氏らは、今回の対象は心不全を見逃され、適切な治療を受けていなかった患者群だった可能性を指摘している(入院前の心不全診断例は除外)。
事実、入院前の心保護薬処方率は、レニン・アンジオテンシン系阻害薬 [RAS-i] (含ARNi)が39.7%、β遮断薬も38.8%のみだった。日本に限れば、順に21%と19%という値である。
なお本研究では退院後の治療実態についても別コホートで検討しており、それによれば、心不全診断後の日本におけるRAS-iとβ遮断薬処方率はいずれも6割強である。
本研究はAstraZenecaから資金提供を受けた。