欧州高血圧学会(ESH)が5年ぶりに高血圧治療ガイドラインを改訂した[Mancia G, et al. 2023]。
薬剤治療については大きな変更があった。前回2018年版では第一選択薬から除外されたβ遮断薬の復活である。また治療抵抗性高血圧に対する最後の切り札として「腎デナベーション」が推奨された。
6月23日から開催された学術集会のプレナリー(全員出席)セッション「ESH2023ガイドライン:全般」「ESH2023ガイドライン:特殊集団」から紹介したい。
今回ガイドラインではβ遮断薬が、レニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬(ACE阻害薬、ARB)、Ca拮抗薬、チアジド系/類似利尿薬と並び、推奨薬として挙げられた。ただし推奨度は他3剤よりも弱い。
復活の理由としては高血圧患者に「β遮断薬が積極的適応となる心疾患合併例が多い」ことに加え「β遮断薬が有用かもしれない心血管系疾患以外の併存疾患が多数存在する」点も挙げられた。
降圧薬治療の開始にあたっては今回も、2剤併用(含・配合剤)が2018年版ガイドライン同様、「推奨」されている。組み合わせは「RA系阻害薬」「Ca拮抗薬」「チアジド系/類似利尿薬」からの選択が望ましいが(ACE阻害薬とARBの併用は避ける)、β遮断薬を組み込むのも「可」である。
ただし単剤での治療開始が「考慮可」のケースとして、「フレイル」例や「高齢者」、あるいは血圧上昇軽度例などが挙げられている。
またβ遮断薬は併存症との関係で、単剤使用もあり得るとされる。
治療抵抗性高血圧に対する薬剤治療の推奨では、前回2018年版に比べ、スピロノラクトンを第一選択薬とする姿勢が弱まった。忍容性を考慮した帰結だという。
その結果、「チアジド系/類似利尿薬」「RA系阻害薬」「Ca拮抗薬」3剤を忍容最大用量服用しても「140/90mmHg未満」を達成できない場合の追加薬としては、「スピロノラクトン(または他ミネラルコルチコイド阻害薬)」「β遮断薬」「α1遮断薬」「クロニジン」「アミロライド」が同列で推奨される形となった。
α1遮断薬については質疑応答で心不全発症リスクを懸念する声が上がった。大規模ランダム化比較試験“ALLHAT”の結果を考慮したものと思われる。
なおこれら4薬を追加後も「140/90mmHg未満」が達成できない場合、今回ガイドラインでは新たに、推算糸球体濾過率≧40mL/分/1.73m2であれば「腎デナベーション」が推奨されている。
以上が、改訂された2023年版ESH高血圧ガイドラインのあらましである。