急性心不全は,「心臓ポンプ機能の異常により,うっ血と臓器低灌流が急性に出現または悪化した病態」と定義される。うっ血はほぼすべての患者に何らかの形で存在する一方,心拍出量低下に伴う臓器低灌流所見を呈する症例は少数であるが,見逃すとうっ血に対する治療に伴い病態が増悪するため,注意が必要である。本稿では,慢性心不全の急性増悪への対処も含む内容とする。
起坐呼吸や夜間発作性呼吸困難などの急性呼吸困難症状や,浮腫,体重増加などのうっ血所見,倦怠感,乏尿などの臓器低灌流症状が出現する。頻脈,呼吸数増加,脈圧低下など,バイタルサインの変化を伴うことも多い。
身体所見として,Ⅲ音の聴取,肺野でのcoarse crackle音の聴取,頸静脈怒張に留意する。肝腫大,腹水貯留など腹部所見も確認する。胸部X線写真における心拡大,肺水腫陰影は診断の基本である。B型ナトリウム利尿ホルモン(BNP, NT-proBNP)の上昇は,慢性心不全の急性増悪診断には有用な所見である。心電図は不整脈の有無に加え,虚血性変化,心肥大の有無など,心臓ポンプ機能に影響を与える基礎疾患の有無をみるのに役立つ。最終的には,心エコー図検査にて心機能,心形態,血行動態の観点から診断を確定する。
来院時収縮期血圧を参考にして,初期救急対応を行う。その後,病態に応じて,呼吸状態の改善,血管拡張薬や利尿薬による前負荷・後負荷の軽減,必要に応じて強心薬を用いることになる。うっ血,臓器低灌流の改善は早ければ早いほどよい。利尿薬や強心薬の投与量・使用期間は,できるだけ最小限にすることが基本であるが,機を逸するとむしろ病態は長引き,治療に時間がかかる。
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