網膜中心動脈閉塞症(central retinal artery occlusion:CRAO)は,眼科における緊急疾患のひとつである。CRAOは,網膜の内層を栄養する網膜中心動脈が,血栓や塞栓などによって閉塞することにより循環障害をきたす疾患である。日本での発症頻度は,年間10万人当たり約2.5人程度と言われている。高血圧,動脈硬化,糖尿病などを有する高齢者に好発する。網膜動脈閉塞症は閉塞部位によって,CRAOと網膜動脈分枝閉塞症(branch retinal artery occlusion:BRAO)にわけられ,前者の予後は悪い。無治療で経過観察した396眼の自然経過によれば,最終的に0.1以上の視力が得られたのはわずか17.7%であったと報告されている。
突然,片眼に高度の視力低下や視野欠損を生じる。痛みは生じない。視力は,手動弁~光覚弁程度にまで低下することもある。
眼底検査で,網膜の後局部に乳白色の混濁および中心部のみ赤く残る所見(cherry-red spot)がみられる。光干渉断層計(OCT)では,急性期には網膜の内層が肥厚し,高反射となる。発症後1カ月以上が経過すると,網膜内層は逆に萎縮して菲薄化する。フルオレセイン蛍光眼底造影では,網膜動脈の循環時間の遅延を認める。
網膜動脈が完全に閉塞すると,1~2時間以内に網膜神経細胞の不可逆的変化が始まる。しかし,臨床上は網膜動脈の完全な閉塞は稀であり,少量の血流が残っていることが多い。CRAOでは,発症から24時間以内に治療を開始することが理想的である。発症から3日以上が経過していると,治療効果はほとんど期待できない。
残り1,231文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する