「血糖を下げても心血管系(CV)イベントが減らない」。2型糖尿病(DM)治療のそのようなジレンマを打破する薬剤として、近年SGLT2阻害薬に注目が集まっている。ではランダム化比較試験(RCT)でプラセボを上回るCVイベント抑制作用が証明されたSGLT2阻害薬は、薬剤間でその抑制作用に差はあるのだろうか―。この点を考える上で興味深い観察研究が、韓国・ソウル大学校のJaehyun Lim氏らにより報告された。7月26日Cardiovascular Diabetology誌掲載の論文を紹介したい。
今回Lim氏らが解析対象としたのは、韓国国民保険データベースから抽出した、ダパグリフロジン(Dapa)新規開始2型DM 11万8064例とエンパグリフロジン(Empa)新規開始2型DM 7万3110例中、傾向スコアで背景をマッチできた15万1504例である(各群7万2752例ずつ)。
末期腎不全例や服用開始後30日以内のCVイベント発生例は除外されている。
平均年齢は56歳、58%が男性、BMI平均は26.9kg/m2だった。
心保護薬は52%がRAS-i、11%がβ遮断薬を服用していた。
その結果、中央値2.08年の追跡期間中、1.6%で「心不全(HF)死亡/入院・脳梗塞・心筋梗塞・CV死亡」が発生し、Empa群とDapa群の間に有意なリスクの差はなかった(Dapa群ハザード比[HR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.96-1.01)。
他方「HF死亡/入院」に限れば、Dapa群でHRが0.84(同:0.71-0.99)の有意低値となっていた。
同様に「CV死亡」のHRも、Dapa群でEmpa群に比べ0.76(同:0.62-0.92)の有意低値となった。
カプランマイヤー曲線はいずれも、ごく早期から乖離し、差は経時的に広がる傾向を認めた。
一方、脳梗塞と心筋梗塞リスクは、両群間に有意差を認めなかった。
SGLT2阻害薬のCV保護作用を証明したRCTのメタ解析では、Empa群とDapa群の間に「CV死亡」「HF入院」とも有意なリスクの差を認めていない。ただしこれらの試験に占める東洋人の割合は、2割程度にすぎない。
一方、台湾の2型DM 1万2681例を解析したデータでは本研究と同様、Dapa群ではEmpa群に比べ「HF入院」リスクは有意に低かった(CV死亡もHRは0.54ながら有意差に至らず)[Shao S‑C, et al. 2019]。
このためLim氏らは、アジア人ではDapaのほうが有用であるとする仮説を立てられると指摘している。
本試験は研究者主導で実施されSamjin Pharmaceuticalから資金提供を受けた(同社はSGLT2阻害薬を製造販売していない模様)。