アルコールは摂取後短時間こそ血圧を下げるものの[Kawano Y, et al. 1992]、常飲は血圧を上昇させる[Nakamura K, et al. 2007]。そのため日本高血圧学会による「高血圧治療ガイドライン2019」では「エタノールで男性20-30mL(おおよそ日本酒1合、ビール中瓶1本、焼酎半合、ウィスキーダブル1杯、ワイン2杯に相当)/日以下、女性はその約半分の10-20mL/日以下」への制限が推奨されている。
しかし上記推奨量でも、血圧は有意に上昇する可能性があるようだ。イタリア、モデナ・レッジョ・エミリア大学のSilvia Di Federico氏らが7月31日にHypertension誌に報告したメタ解析を紹介したい。
同氏らが今回解析対象としたのは、アルコール摂取量とその後の血圧変化を経時的に観察した7研究である(1万9548名)。心血管疾患既往例や糖尿病例、肝硬変例、またアルコール中毒/過剰摂取例を対象とした研究は除外されている。
対象の年齢層は20歳から64歳、65%が男性だった。観察期間中央値は5.3年である。
その結果、血圧はアルコール摂取量用量依存性に上昇を続け、この関係はきわめて低用量から認められた。
すなわちアルコールを「12g/日」摂取するだけでその後の血圧は非摂取者に比べ、「1.25/1.14mmHg」の有意高値となっていた。「12g」のアルコールといえば、ビールならレギュラー缶8割強、日本酒であれば猪口3杯、ウィスキーなら少し多めのシングル(30mL)、ワインではワイングラス1杯(120mL)となる(厚生労働省「e-ヘルスネット」)。
さらにアルコール摂取量が「24g/日」高値なら非摂取者と比べた血圧上昇幅は「2.48/2.03mmHg」、「48g/日」高値ならば「4.90/3.10mmHg」に及んだ。
アルコール摂取量増加に伴う上昇は拡張期血圧よりも収縮期血圧でより著明だった。
なお女性では、アルコール摂取量が約「20mg/日」を超えると拡張期血圧が低下する傾向が見られた。
Di Federico氏らは、収縮期血圧に悪影響を与えないアルコールの摂取量上限はないと考察した上で、アルコール摂取は量の多寡を問わず収縮期血圧上昇のリスク因子であるとして、予防・治療上、重視すべきだと考えているようだ。
なお今後の課題の1つとして、アルコール飲料間で血圧への影響に差があるか検討するのも有用だろうと見解も示している。愛飲家であれば是非とも知りたいデータではなかろうか。
本研究は外部からの資金提供を受けていない。