今回も「完全房室ブロック」を扱いたいと思います。前回は心電図診断をどうするかを中心に述べましたが,今回は【応用】として,病態について深掘りしたいと思います。
はじめに刺激伝導系の基本事項から復習してみましょう(図1)。
洞結節から発せられ,心房(2階)を経たシグナルは,房室結節(AV node)*1へ入ります。いわば“前室”であるここでシグナルは大きく減速し,心室の世界へと入っていく“心の準備”を整えます。
医学生の頃,不勉強なボクは心房と心室の境目はこの房室結節かと思っていました。ただ,あえて“前室”と言いましたよね?期外収縮でも,心房と房室接合部(房室結節の周辺)が起源なものを「上室(性)」と一括するように,“前室”(房室結節)は“中2階”,つまり2階(心房)の一部と思っておきましょう。
では,心室(1階)への“扉”はどこかというと,これはヒス束(bundle of His)と呼ばれる組織になります(Wilhelm His Jr.が1893年に発見)。房室結節に比べるとあまり馴染みはないかもしれませんが,一般的にはここからが心室ワールドに分類されます。
ヒス束は,房室結節と脚(bundle branch)とを仲介する長さ2cm弱の組織で,下流にすぐ脚の枝分かれがあるため,“common bundle”とも呼ばれます。
房室結節で減速したシグナルはヒス束で一気に加速し,正常ならば両脚へほぼ同時に届けられるため,幅の狭い(narrow)QRS波が形成されます。脚は左右二手に,左脚はさらに分かれて最終的にプルキンエ線維(網)を経て心室筋へと到達することになります。
ヒロ少年は小さい頃,母に「心臓は自分だけで動けるんだよ」と教えてもらい感動しました。「自動能」という表現になるかと思いますが,これはどの部位でも同じではなく,組織ごとに個々のペースが決まっています。この“自力”を固有心拍数と言います。
通常は,リズムに関する心臓のリーダーである洞結節のペースが一番速く,他の組織はそれに追従します。ただ,何らかの理由で急に下位に“お鉢”が回ってくることがあり,「完全房室ブロック」もその一因です。ですから,以前お伝えしたような,心臓の“七五三ルール”は絶対におさえておきましょう。これは,補充中枢を考える上でも重要な数値になってきます。
ここでいう「房室結節」は,より正確には「房室接合部」ですし,「心室」には,ヒス束,脚,脚枝,プルキンエ線維(網),心室筋までが含まれると考えて下さい。原則として上位ほどレートが早くなるため,(あくまでも)目安ですが,「ヒス束:40/分,脚(枝):30/分,心室筋:20/分」のような“10/分ごと”にイメージしておくのは悪くないと思っています。
*1 この組織を見つけたのは,ドイツ留学中だった田原淳(すなお)です。Tawara-Aschoff結節という“別名”とともに,医学史に名を残す日本人の大業績だと思います(詳細は成書参照)。