心房細動(AF)例の約2割を占めるとされるフレイル[Proietti M, et al. 2022]例だが、これらに対する直接経口抗凝固薬(DOAC)はビタミンK阻害剤(VKA)よりも出血リスクがはるかに高い可能性が、8月25日からオランダ・アムステルダムで開催された欧州心臓病学会(ESC)学術集会で報告された。「VKAからDOACへの切り替え」群は「VKA継続」群に比べ出血リスクが1.5倍以上に増加したとするランダム化比較試験(RCT)”FRAIL-AF”である。Linda P.T. Joosten氏(ユトレヒト大学、オランダ)による発表を紹介する。
FRAIL-AF試験の対象は、75歳以上で「Groningen Frailty Indicator(GFI)≧3」のフレイルを認める、VKA服用下の外来管理非弁膜性AF 1330例である。「推算糸球体濾過率<30mL/分/1.73m2」例は除外されている。
平均年齢は83歳、CHA2DS2-VAScスコア中央値は4、GFI中央値は4だった。
これら1330例は「VKA継続」群(アセノクマロール、フェンプロクモン)と「DOAC切り替え」群(VKA中止後「INR<2.0」ならDOAC開始。出血多発のためのちに「INR<1.3」に変更)にランダム化され、平均344日観察された。
「VKA継続」群の目標INRは「2.0~3.0」、「DOAC切り替え」群の薬剤選択は担当医に任された。
証明すべき仮説は「DOACへの変更で出血が減少する」というものだった。
しかし、1次評価項目である「大出血・対応を要する非大出血」発生率は逆に、「DOAC切り替え」群(15.3%)で「VKA継続」群(9.4%)に比べ有意に高く(P=0.00112)、ハザード比(HR)も1.69(95%信頼区間[CI]:1.23-2.32)の有意高値だった。
「DOAC切り替え」群におけるリスク増加は「対応を要する非大出血」で特に著明だった。
2次評価項目である「血栓塞栓症イベント」も「DOAC切り替え」群におけるHRは1.26だったが有意ではなく(95%CI:0.60-2.61)、「総死亡」HRも0.96(同:0.64-1.45)と有意差を認めなかった。
この結果について指定討論者であるIsabelle C Van Gelder氏(フローニンゲン大学、オランダ)は以下を指摘した。
・安全性でDOACがVKAを上回った4つのランドマークRCTの対象平均年齢が70歳代前半だったのに対し、FRAIL-AF試験では83歳だった。まったく異なる患者群と考えるべきだろう。
・特にFRAIL-AF試験参加例の「9割近くが常時4種以上の薬剤を服用」「約半数が視覚や聴覚に問題」「4割弱が記憶力低下に困惑」などの患者特性には注目が必要。
・両群の出血発生曲線が乖離し始めるのは、試験開始90日後前後なので、「抗凝固薬切り替え」そのものが出血リスクを増やしたとは考えられない。
・本試験「VKA継続」群のINR TTR(目標域達成時間の割合)中央値は上記ランドマークRCTと同等なので、FRAIL-AF試験におけるINR管理の良さが「VKA継続」群の出血を減少させたわけではなさそうだ。
・DOACの不適切減量も6.6%のみだった。
・フレイル例に対する有用性がDOAC間で異なる可能性を示唆するデータもあるため[Kim DH, et al. 2021]、本試験で多用されていたDOACよりも出血リスクの低い薬剤が多く用いられていれば、DOAC群の出血が減少した可能性はある。しかしそれだけで今回の結果が説明できるとは思えない。
・(詰まるところ)DOACはまだ比較的臨床経験の少ない薬剤であり、未知の相互作用が隠れている可能性もある。それゆえINRを目安に調節できるVKAのほうが安全だったのかもしれない。
さらにJoosten氏、Gelder氏ともに強調したのが「RCTに基づかないコンセンサスベース推奨」の危うさだった。
欧州不整脈学会は本年4月、フレイル例の不整脈管理に関するコンセンサス文書を公表し、「DOACのVKAに対する優位性はフレイル、非フレイルいずれのAF例でも一貫しているだろう」「DOACの恩恵はフレイル例でより大きいだろう」と記している[Savelieva I, et al. 2023]。今回のFRAIL-AF試験はDOAC治療開始とVKA治療開始を直接比較しているわけではないが、少なくともこのコンセンサスを支持するものではない。
本研究はオランダ政府、ならびにDOAC製造4社すべてから資金提供を受けた。
また報告と同時に、Circulation誌ウェブサイトに論文が掲出された。